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われらの! ライダー!(第五部)

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(一月末、本拠地にしていたdノベルズの閉鎖が迫り、有志十数名でノベリストへの引越しを決めました、dノベルズへの惜別と新天地への希望、そんな思いを込めて書いた作品です)


『引っ越せ! ライダー!』


(トンビか……東京じゃ珍しいな……)
 立花レーシングの屋上に寝転んで、剛は空を眺めながら日向ぼっこをしていた。
 おやっさんと隼人、丈二は朝からどこかで出かけていって留守、久しぶりの夫婦水入らずの休日だ。
 はるか上空ではトンビがぐるぐると円を描くように飛んでいる。
 ふと視線を落とすと、その先にはかいがいしく洗濯物を干している志のぶの後姿……。
(う~ん、わが女房ながら良い女だなぁ……惚れ惚れするぜ)
 そう思うとひとりでに笑みが浮かんでしまう……そんなのどかな午後……のはずだった。

「ん? おかしいぞ」
 剛がむっくりと起き上がると、志のぶも干し物の手を止める。
「どうしたの?」
「空を見ろよ、あのトンビ……」
「あら、珍しいわね」
「いや、そうじゃなくて、大きすぎないか?」
「え? そう?」
 志のぶは千里眼を発動して空を見上げ、トンビの正体を見極めると眉をひそめた。
「大きい筈よ! あれは怪人だわ!」
「怪人?」
「そう、怪人トンビ男だわ、いけない! 急降下して来る!」
 トンビ男の姿はあっという間に大きくなる、『キーン』と音がしそうな猛スピードだ! 
「危ねぇっ!」
 剛はとっさに志のぶを抱いて伏せ、すれすれの所でトンビ男の爪攻撃をかわした。
 トンビ男は急降下して来たスピードそのままに、Uと言うよりVの字を描くように急上昇して、再び空に円を描く、驚くべき飛翔能力だ。
「あなたっ、早くペントハウスへ!」
「怪人を前にして逃げられるかよ!」
「そうじゃないの、相手は飛べるのよ! 高い所での戦闘は不利だわ!」
「そう言われれば確かにそうだ……やい! トンビ男! 俺は逃げも隠れもしねぇ! 地上で相手してやるぜ!」
 そう叫ぶと、志のぶをかき抱くようにしてペントハウスへ飛び込んだ。


「おい! どこからでもかかってきやがれ! 相手になってやるぜ!」
 仮面ライダー・マッスルに変身した剛は、普段のトレーニング場になっている広場に飛び出した。
 同じくレディ9に変身した志のぶには物陰に隠れているように言ってある、ショッカーのことだ、どこに戦闘員が潜んでいるかわからない、こっちは二人、『私も闘う』と言い張る志のぶに、その方が賢明だと言い聞かせてのことだ。

 マッスルの姿を見つけたトンビ男は再び急降下して来る、屋上での攻撃方法は爪、どんなに速かろうとマッスルにはその脚を掴めるという自信があった。
 鋭い風切り音を響かせてトンビ男が急降下して来る、マッスルは神経を集中してその爪を見定めようと目を凝らす。
「今だ!」
 マッスルが手を突き出すタイミングに誤りはなかったが、トンビ男の飛翔能力を見誤っていた、トンビ男はマッスルの直前で微妙にコースを変え、マッスルの手は宙を掴んだ。
「ぐわっ!」
 膝をつくマッスル、右側頂部に爪の一撃を食ってしまったのだ。
「あなたっ!」
 飛び出そうとするレディ9をマッスルは押し留めた。
「大丈夫だ、この頑丈なマスクのおかげで傷は負ってねぇよ、次は捕まえてやる」
 素早く立ち上がったマッスルに再び爪が迫る。
「そこだ!」
 しかし、突き出した手は再び宙を掴んだ、今度は左にコースを変えられたのだ、しかも一度目より当たりが厚い、マッスルは思わす倒れこんでしまった。
(そう甘くはねぇか……)
 マスクの左のレンズ部分が損傷して、生身の目がむき出しになってしまった。
 視力強化の機能があるレンズだ、片方だけだと距離感が全くつかめない、マッスルはマスクをかなぐり捨てた。
 すると、それを合図にしたように戦闘員が飛び出してくる、こうなっては志のぶも隠れている意味がない、仁王立ちのマッスルめがけてレディ9が、戦闘員が駆け寄り、トンビ男もまた三度目の打撃を加えようと急降下、全ての動きがマッスルに向かって一点集中した。
「えいっ!」
 レディ9がマッスルの前方に投げつけたのは煙玉! 一瞬にして視界が奪われ、戦闘員達よりも一瞬早くマッスルの元へ到達したレディ9はタックルをかけるようにマッスルを押し倒した。

「「「「ギャ~~~~!!」」」」

 トンビ男が巻き起こす旋風で煙が晴れると四人の戦闘員が倒れていた、そして、さすがに衝撃でスピードが落ちたのだろう、トンビ男も再び上昇するためにバタバタと羽ばたいている。
「あなた! これを!」
 いちはやく立ち上がったレディ9がマッスルに向かって放り投げたもの、それは折りたたみパイプ椅子だ。
「おお! プロレス名物パイプ椅子か! こいつはちょっと久しぶりだな、よっしゃ! こいつがあれば百人力だぜ!」
「考えがあるの! ちょっとの間離れるわ、油断しないようにね」
「おう!」
 レディ9は立花レーシングの内部に走り去り、マッスルはパイプ椅子を上段に振りかぶる。
「さあ! きやがれ! 叩き飛ばしてやるぜ!」
 トンビ男が急降下体勢に入る、先ほどまでとは違い、翼を半ば畳んだ状態、更にスピードを増して頭から突っ込んでの嘴攻撃だ! しかし、それは剛の想定内でもあった。
「へっ! 思う壺だぜ」
 ガン!
「ギャッ!」
 パオプ椅子を上段に振りかぶったマッスルだが、それを振り下ろすのではなく、そのまま突き出したのだ。
 抜群の飛翔能力を誇るトンビ男をしてもギリギリで直撃をかわすのがやっと、側頭部に背もたれの先端を受けてしまい、勢い余って地面に転がった。
「トドメ、行くぜ!」
 走り寄るマッスル! 振り下ろしたパイプ椅子をすんでの所でかわしたトンビ男は再び羽ばたいて上空へ。

「あなた! トンビ男は?」
「おうっ、もうちょっとで仕留められたんだがな、ギリギリで逃げられちまった、奴は上だよ、性懲りもなくまた急降下するつもりだろう、次こそ仕留めてやるぜ」
「トンビの能力を持っているとすれば動体視力も鋭い筈よ、同じ攻撃は通用しないわ」
「そうか、ならば今度はとっ捕まえてやるぜ」
「私に考えがあるの、任せて!」
「危なくはないんだろうな?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私もライダーチームの一員よ、信用して欲しいわ」
「わかった……来るぞ!」
「トンビにはこれよ!」
 走り出したレディ9、高く掲げたその手には、今夜味噌汁の具になるはずだった油揚げが!
「うっ……くそっ」
 嘴攻撃をするつもりで突っ込んで来たトンビ男だったが、トンビのDNAを組み込まている以上、油揚げの誘惑には勝てない、レディ9の寸前で僅かに上方へ軌道修正し、爪で油揚げを攫いにかかる、しかし、レディ9はその機を待っていたのだ!
「えいっ!」
レディ9は油揚げを軽く放り上げると、トンビ男がそれを掴む瞬間を狙ってジャンプし、脚に掴まった。
「わ! 何をする! お、重い……」
「重いとは失礼ね! 女には禁句よ!」
「は、離せ!」
「ご冗談を、せっかく捉まえたのに離すわけないでしょ?」
「くっ……振り落としてやる」
「やってごらんなさい、はぁっ!」