Sue
浅黒い肌の美しいプロポーション、すっきりした顔立ちに印象的な大きな瞳、そして奇麗な黒髪……砂浜で斜めに正座し、こちらを向いてにっこりと微笑むスーの等身大看板がレンタルビデオ店、セルビデオ店に飾られるとたちまち日本中の男達が魅了され、スーのデビュー作は大きなヒットとなった。
「……スー?……スーなのね?……」
「お母さん……」
「本当に……また会えた……」
「うん……あたしも嬉しい……」
久しぶりの母娘の再会を一歩下がって見守っていた美香は思わず涙を拭った……。
「それじゃ、いま、お母さんは一人ぼっち?」
父親は肝臓を患って半年前に亡くなったと言う……スーの稼ぎを残らず飲んでしまった報いだ……弟達も職を求めて都市部へ出て帰らず、連絡も取れないと言う。
「もし良ければお母さんも日本に……」
美香の申し出に母親は小さく顔を振った。
「いいえ、今はあなたがスーの母親なのですから、あたしが入り込む場所はありません……あたしはこの国で、この家でスーを待ちます……そのかわり……」
「ええ、毎年、いいえ毎年二回はここにスーを連れて参ります」
「ありがとう……あたしはそれで充分……」
それから20年以上が経つ。
酒井は今でも東南アジアでスカウトの日々を送っているが、スーをスカウトした以上の成功を収めたことはない。
10年ほど前からこちらに移住して自身のプロダクションもこちらに移し、今はもっぱらパブやキャバクラのホステスをスカウトして日本に送る日々を送っている。
しかし、酒井はそれで満足している、東南アジアの緩さ、ある種の猥雑さが性に合っていてこちらに骨をうずめるつもりなのだ。
スーは10年以上にわたってAV女優として活躍し、引退後は義母の美香とスナックを経営、本国の母親には今でも年に2回会いに行っている。
「酒井さん、お久しぶりです、お元気ですか?」
「やあ、スーか、良く来たね、見てのとおりなんとかやってるよ」
スーは里帰りの度に酒井にも会いに来てくれる。
初めて見かけた時に強く惹かれた瞳は今も変わらず、酒井はスーに会うと思わず笑顔になる……スーと共に過した撮影の日々は今も酒井の脳裏に刻み込まれているのだ。
あどけない笑顔、憂いを秘めた表情、幼くも美しい肢体、そして例のほくろまでがすぐに蘇る。
酒井は「スーに良い事をしてやった」などと言う自負はない、スーが成功していなければ自身の零細プロダクションなどとっくになくなっていただろうから。
酒井にとってスーは最も成功したビジネスケース。
もちろん、今では父娘のような感情も抱いているが……。
(終)