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御手紙 葉
御手紙 葉
novelistID. 61622
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twinkle,twinkle,little star...

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 美夕ちゃんが私の隣に並んで広場をゆっくりと歩きながら、興味深げに聞いてくる。私はうなずき、「アパートに一人でね」とその方向へと顔を向けて笑う。
「私は三連休でおばあちゃん家に来てて、ここら辺はよく知っている訳ではないんですけど、好きなんですよ、結構」
 私達はふっと笑い合い、歩調を合わせて進んでいくけれど、美夕ちゃんは歩調も弾むようで、彼女の軽やかな足取りに私も釣られてしまう。道の間隔は広く、右端にいくつか木の周りにベンチが張り巡らされ、そこで将棋盤に向かう老人達がいて、なんだか楽しそうな雰囲気だった。
「私、昨日家に帰ってみて考えたんですけど、あれから少し泣いてしまって……でも、佐代さんが声をかけてくれたのでそれで安心して落ち込まずにいられたんです。本当にありがとうございました」
「今はずっと悲しいかもしれないけれど、美夕ちゃんの強さなら乗り越えられるわよ」
 私が風にふわふわ揺れる彼女のショートヘアーを見つめて言うと、彼女はそうでしょうか、と困ったように笑った。
「私、今にも泣きだしそうなぐらい落ち込んでることは落ち込んでるんですけど、佐代さんの言葉がずっと頭の中に残っていて。また星を観たいって思えてきました」
「また新しい恋が訪れるわよ」
 はい、と彼女はうなずき、それから星についての話になった。彼女は私の地元の星空についてよく聞いてきて、興味を持っているらしかった。私はスマートフォンでその写真を見せてあげて、綺麗でしょ? と微笑んだ。
 彼女はいいなあ、と何度もしきりにつぶやき、私のスマートフォンに顔を寄せて画面をタッチし、熱心に写真を見つめていた。
「あのさ、良かったら、なんだけど」
 私が彼女の横顔へとそうつぶやくと、彼女が何ですか? と楽しそうにつぶやく。
「明日良かったらプラネタリウムへ案内してあげようか? 近くに博物館があって、そこで観れるんだけど」
「ほ、本当ですか?」
 彼女はスマートフォンを私へと返し、嬉しそうに顔いっぱいに笑みを浮かべる。私はうなずき、駅から電車で数駅いったところに博物館があり、そこでプラネタリウムが併設されていることを語った。
「そこ、知ってます。おばあちゃん家にいる間に一度行ってみたいな、って思ってたんです」
「なら、良かったわ。怪しい女に連れていかれると思って迷惑だったら、断っても全然気にしないけど。もしよかったら、どう?」
 行きます、と美夕ちゃんは大きな声でうなずいてみせた。
「うわ……本当に楽しみです。私が住んでいるところにもプラネタリウムがあって観たりするんですけど、博物館で星に関する展示もやってるって聞いて、興味持っていたんです。ありがとうございます、佐代さん」
「いいのよ、私も誰かと行く約束がないと、機会がなかったから」
 そうして私達は微笑み合い、公園の中を散歩し続けた。美夕ちゃんはスキップをするように軽々とした足取りで私の横を歩き、私も彼女から色々な話を聞いて、休日の穏やかな一時を楽しんだ。人との出会いってどこにあるかわからないものだな、と深く思った。
 そうして私達はお互いに同じ趣味を共有する同志として、確かな縁が紡がれたのだった。

 私は次の日、あのコンビニで美夕ちゃんと待ち合わせた。彼女は可愛らしい服装で先に待っていて、私が歩み寄っていくと、ぶんぶんと手を振った。そして、佐代さん! と大きな声で合図する。
「待たせてごめんね。それじゃ、行きましょうか」
 はい、と彼女は満面の笑みでうなずき、並んで歩き出して、住宅街から大通りへと出た。朝の冷たい空気が私達の掌を滑って袖口へとすっと入り込んでくるけれど、それは私達のわくわくと浮き立つような気持ちとなって暖かな熱に変わった。
 私は昨日メールで話していたCDを彼女へと見せ、「これなんだけど」と話す。
「すごくいいから、帰って聴いてみてね」
「え、でも、私連休終わったらまた自宅に帰らないといけないし……」
「いいのよ」
 私はくすりと微笑んで、顔の前で手を振り、そのCDケースを彼女へと差し出した。
「これは私からのプレゼント。確かな友情の証ってことで」
「友情……」
 彼女はぽかんとそれを受け取って見つめていたけれど、やがて顔を綻ばせて、「ありがとう、佐代さん!」とバッグへCDを仕舞った。
「なんか佐代さん、私にこんなに良くしてくれるけど、何にもできないし……」
「私も妹ができたみたいで楽しいから」
 大通りには車が絶え間なく往来し、道の先では歩いている人がちっぽけな人形みたいに点々と動いていた。私達は車の走行音に吐息を掻き消されながら、それでも風に心を乗せてふわりふわりと空へと立ち昇っていきそうだった。
 それほど私達は同じ楽しみを分かち合うことができるのが嬉しかったようだった。陳腐なようでいて、こういうシンプルな趣味の楽しみ方も悪くはないような気がした。
 横断歩道を渡り、銀行やファーストフード店が並ぶ駅前通りをゆっくりと歩いていった。その間、美夕ちゃんは学校のことについて楽しそうに語ってくれた。
「地学部のみんなはすごく仲良くて、普段から遊んでいるんですけど、熱心なんですよ、これが。みんな旅に出て星座の写真持って帰ってきたりとか……あそこにいるときが一番楽しいかな、私」
 私もうなずき、高校時代に地学部に入っていたことを話した。すると、美夕ちゃんはますます楽しそうにそのことについて語り、私達は電車に乗ってからも話の種は尽きなかった。
「美夕ちゃんの将来の夢は何なの?」
 私がそう聞くと、彼女は少し押し黙り、そしてふっと笑って首を傾げてみせた。
「まだやりたいことは決まっていないんですよ。でも、星のことはいつでも好きでいたいと思っています」
「それがいいわね。私もそれだけはずっと忘れずに毎日を生きていきたいと思っているわよ」
 ですよね、と彼女はつぶやき、私達は目的の駅で降りると、小さなホームを歩いて階段で改札前に出た。美夕ちゃんは本当に楽しそうで、弾むような足取りで前を歩き、私へと振り返って促してくる。
 駅から出ると、長い道がずっと先まで続いていて、頭上には木々が枝を伸ばせて地面に陰影を作っていた。ぽかぽかとした暖かい陽射しが降りて、私の頬を撫でて、心地良い火照りを与えてくれる。
 冬にしては今日は暖かく、それは足取りが弾むようになって、自然と体があったまってきていたのかもしれなかった。美夕ちゃんはあそこですよね、と前を指差して、どこかはしゃいだようにしている。
 博物館は特別大きいという訳ではないけれど、周囲をたくさんの木々に囲まれて、この道を散歩するだけでも楽しそうだった。ガラス張りの自動ドアが開いて中に入ると、左側にカウンターがあり、そこで私達はチケットを買った。
 それほど展示が充実しているとか、そういうことはないのだけれど、それでも美夕ちゃんは中を歩きながら展示へと私を促し、嬉しそうにしていた。
 展示コーナーへと入ると、辺りが暗くなり、頭上に星々の光が広がり始める。展示について、アナウンスの声が入り、一つ一つパネルに天体についての説明が詳しく載っていた。画面にビデオが再生され、至るところに音楽やアナウンスが流れて、美夕ちゃんは熱心に聞き入っていた。