深夜のチョコレート
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一度目は小学校六年のとき。友だち同士で集まってバレンタイン用のチョコを作ることになった。名目は友チョコで、本心は誰が誰を好きなのか探ることだった。私は渡す人がいないからと断ったのに、結局仲間に入れられてしまった。誰が好きなのかとずいぶんしつこく聞かれたが、最後まで答えられなかった。何となく顔は思い浮かぶものの、それがいわゆる「好きな男の子」なのかどうか、よくわからなかった。持ち帰った包み紙は結局、父に渡した。涙目になりながら喜んでいる父の顔を見て、やっぱり作るんじゃなかったと思った。
二度目は中学二年のときだ。またしても「チョコ作ろう会」に加えられた私は、有無を言わさず渡しに行く手筈を整えられてしまった。小学校のときに気になっていた男子は「好きな人」に昇格し、無事家の前までたどり着くことができた。けれどスキー旅行に行っていた彼の一家は留守だった。またしても渡すことはかなわなかった。
その彼とは高校進学のときに道を違えることになった。学区一の進学校に合格したのは私だけで、彼は落ちてしまった。中学三年の冬、合格発表のその日がバレンタインデーだった。一人で発表を見て帰るはずだったのに、ばったり駅で鉢合わせてしまった。私たちはお互いの受験番号を知っていた。彼は貝のようにむっつりと口をとざしたままだった。三度目も、渡せるはずがなかった。