深夜のチョコレート
深夜のチョコレート
立待月の夜、チョコレートを食べる。
それは自分への褒美のつもりだった。
20××年二月、私はひとり街頭を歩いていた。深夜だというのに木々はうざったいほどのイルミネーションで彩られ、安っぽい光をともらせている。吐く息は白く、耳はちぎれそうなほどに痛い。仕事帰りなのか、これから飲みにでも行くのか、都会の雑踏は人の行き来が絶えない。夜十時を過ぎれば歩く人の姿もなくなるような田舎に住んでいた私には、異様な光景に映る。
バイト帰りのこんな時間、女ひとりで歩いていても怖さもない。客引きに捕まることはあっても、私に関心を抱いている人など誰もいない。コートのポケットに入れた携帯電話が鳴ることもない。
トートバックの中には、渡すはずだったチョコレートが眠っている。
同じバイト先の先輩に渡すはずだった小さな小箱――また渡せなかった。バレンタインのチョコレートを渡せなかったのは、これでいったい何度目だろうと、赤信号を見ながらため息をつく。