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われらの! ライダー!(第一部)

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5.泣くな! ライダー!




          
(2016.05 お題:『秘密』、『下駄箱』、『選ぶ』 下駄箱は難問ですねぇ……これらをいっぺんに消化するには……ライダーだって恋をしますw)


          『泣くな! ライダー!』


「イーーーー!」
「とおっ!」
「ギャーーー!」

 仮面ライダー・一文字隼人は今日もショッカーの魔の手から善良な市民を守って戦い続けている。
 最近、遺伝子工学の研究で大きな成果を挙げて注目されている鈴木博士、彼がショッカーに狙われていると言う情報をキャッチしたライダーは、学会賞授与式会場をマークしていた。
 案の定、ショッカーは戦闘員を送り込んで博士を拉致しようとしたが、ライダーがそれを許さない。

「またしても我々の邪魔をしおって! 覚えていろ! ライダー!」
 死神博士は倒れている戦闘員を置き去りにしたまま姿を消した……この分では大幹部失脚も時間の問題かもしれない……大幹部の座を狙う地獄大使は着々と戦闘員たちの人心を掌握しつつあるのだ。

「鈴木博士、お怪我はありませんか?」
「おかげさまで傷一つありません、危ない所を助けて頂き、ありがとうございます、ライダー」
「いえ、これは私が選んだ道ですから……あなたのように優秀な科学者をみすみすショッカーに渡すわけにはいきません」
「感謝の言葉もありません、ほら、君からもお礼を言ってくれないか、宏美」
「ええ……本当に恐ろしかったです、とてもお強くていらっしゃいますのね……」
 博士に守られるようにしゃがみこんで顔を伏せていた鈴木夫人だったが、立ち上がり、深々と頭を下げた後、顔を上げて柔らかに微笑んだ。
(えっ?……)
 その顔を見た時、ライダーは雷に打たれたような心地がした。
 ……博士は彼女を宏美と呼んだ、そしてその姿は中学校時代の面影を色濃く残していたのだ……。

 鈴木宏美さん、旧姓佐藤宏美さん……何を隠そう、彼女は、仮面ライダー・一文字隼人の初恋の女性だったのだ。
 ライダーの脳裏に中学校時代の思い出がまざまざと甦る。
 清楚で美しく、奥ゆかしかった宏美さん……今もその印象は寸分違わない。
 硬派を自認し、周りからもそう見られていた隼人は、彼女に恋心を抱きながらも面と向かって告白することすら出来なかった……中学校の下駄箱、彼女の上履きの下にそっと置いた匿名のラブレター……それが隼人に出来た精一杯の告白だったのだ。
 そして、ショッカーに拉致され、改造手術を施されながらも脳改造される寸前で辛くも脱出することが出来たのも、脳改造によって彼女の思い出を消し去られるのは嫌だ……その一念があったからこそだった……。

 変身したこの姿を見て、彼女が自分と気づかないのは当然だが、変身を解いたら彼女は自分と気づいてくれるだろうか……。
 ライダーは、いや、隼人は変身を解いて名乗り出たい衝動に駆られた。
 ……しかし、いまや彼女は人妻の身、いまさら名乗り出る訳には行かない、そして、自分が、一文字隼人が仮面ライダーの正体である事は、心許せる仲間以外には秘密なのだ……彼女の、彼女自身が選んだ人との幸せに水を差すこともできない。

「博士、あなたは遺伝子工学を悪用するショッカーとの戦いに於いても大切なお方だ、それだけにショッカーもまたあなたを狙ってくるかも知れません」
「分かりました、身辺には充分に気をつけることにします」
「では、私はこれで」
「あ……ライダー、なにかお礼を……私に出来ることは何かありませんか?」
「いつの日かショッカーを根絶することが出来たその日には……私も普通の人間に戻りたいのです」
「そうですか、その時、お手伝いが出来るように研究に励みましょう」
「ありがとう、博士……なによりのお言葉です……それともう一つだけ……」
「何でしょう? なんなりと」
「奥様をお大事になさって下さい……」
「え?……あ……はい、わかりました」
「ではっ!」

 サイクロン号が唸りを上げ、ライダーは猛スピードでその場を離れた。
 仮面ライダーの複眼から涙は出ない……しかし、その心の中は普通の人間となんら変らないのだ……。
 泣くな! ライダー! ショッカーを斃して普通の人間に戻れるその日まで……その日が来ることを信じて……。

             (泣くな! ライダー! 終)