口紅 ~rouge~
定食屋
就職し始めた
一人暮らし
職場から
車10分の距離
近所にある
小さな商店街
時計店
花屋
茶屋
蕎麦屋
居酒屋
クリーニング店
そして
定食屋が
一軒
引越してから
数ヶ月後
暖簾を潜ったのは
親子で経営する
古い定食屋だった
戸口の斜め上に
備付けのテレビがあり
初めて 座った
テレビ下の席が
僕の常連席に
なった
しばらくして
カウンター席の
常連客達に
作業着の社名から
『 〇電機の兄ちゃん』と
呼ばれる様になり
何度か名前を尋ねられ
その都度 応えたが
結局
『 〇電機の兄ちゃん』が
定着した
通い始めて
一年が
過ぎた頃
機械トラブルが発生し
数日 午前0時まで
残業対応する
過酷勤務に追われた
定時で上がれるはずの
週末も
午後9時まで延び
定食屋の前に
辿り着く時には
暖簾もしまわれ
店内の電気も
薄暗くなっていた
一気に
疲労感が襲ってくる
失望に似た無念
店先で
立ち尽くしていると
店横の狭い路地から
定食屋の息子が
僕を呼んだ
「飯食い付き合え」
僕より
一回り程
年上の息子
僕は誘われるまま
数軒先の居酒屋へ
着いて行った
作品名:口紅 ~rouge~ 作家名:田村屋本舗