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銀の錬時術師と黒い狼_魔の島

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 これ以上起きている気にもならず、レギウスはリンに背中を向けると目をつぶった。しばらく経ってウトウトとまどろんでいると、突然の圧迫感に襲われて目を開けた。またもやリンが後ろから抱きついてきていた。レギウスの腹に両腕を回し、あらんかぎりの力で内臓をグイグイとしめつけてくる。
「……ゲフッ……おれを殺す気か」
 リンがレギウスの背中で寝言をつぶやく。なにを言っているのか、わからない。たぶん、旧帝国の吸血鬼が使っている言葉──〈月の言葉〉だ。
 リンの豊かな胸がレギウスの背中に強く押しつけられてきた。が、内臓がちぎれてしまいそうな激痛でその感触も打ち消されている。喉から胃袋が飛びだしてしまいそうだ。
「起きろ、リン」
 肘でリンをつつく。ムニャムニャと声を洩らすが目は覚まさない。レギウスの腹部にリンの指先が喰いこむ。圧力に耐えかねた背骨がミシミシとイヤな音をたてた。
「……ガッ!」
 リンがブツブツと寝言をこぼす。レギウスの名前が含まれていたような気がしたが、はっきりとは聞きとれなかった。
 激痛が昇華する。
 レギウスは不本意な闇の底へと落ちていく。

 目覚めとともに痛みが押し寄せてきた。
 背中が痛い。腕がしびれている。
 レギウスは目を開ける。窓のないこの部屋は、陽射しの角度で時間を推し量ることができない。朝になった、と感覚的にわかる程度だ。
 ぼやけていた視界が晴れると、目の前にリンの寝顔があった。ものすごく近い。彼女の長いまつげの一本一本が数えられるほどに近かった。
 レギウスは動転する。
 リンは上半身裸だった。かろうじて腰のあたりに橙色(だいだいいろ)の寝衣がたまっている。腕にはさまれて盛りあがった胸の双丘がレギウスの裸の胸に押しつけられている。
 そのときになって気づいた。自分がまたしても全裸になっていることに。しかも、いつの間にかリンと抱き合うかたちになっている。
 左腕がリンの頭の下になっていた。右腕はリンの腰に伸び、彼女のお尻をギュッとつまんでいる。
(……どうしてこうなった?)
 リンに背中から抱きすくめられて気を失ったところまでは憶えている。
 そのあと、なにがあったのか、あまり推測したくはなかった。
 低い声でうめく。リンから身体を離そうとする。朝になって元気溌剌(はつらつ)となったレギウスの分身がリンの寝乱れた寝衣にひっかかり、抜けなくなっている。
 手を伸ばしてリンの寝衣を自分の下半身からどけた。温かいものが指に触れる。リンの太腿だった。
 それが刺激になったのか、リンの目がパッチリと開いた。レギウスと目が合う。
 二、三秒のあいだ、見当識を失ってレギウスの顔をさまよっていたリンの視線が、彼女自身の身体を見下ろした。
 リンの短い悲鳴。猛々しく突っ張ったレギウスの股間を目にして、今度は違う種類の悲鳴をあげる。
 レギウス、無言。こんな姿ではどんな威厳もたもてない。
 あわてて着衣を直して、リンは寝台に上半身を起こす。涙ぐんでいた。顔は真っ赤だ。喉の奥からしぼりだした声はうわずっていた。
「……なにが……昨夜はなにがあったんですか?」
「さあな。おれも知らん」
 レギウスはリンの頭の重みから解放された左腕を動かし、血流が回復したときの刺すような鋭い痛みに顔をしかめる。
 レギウスの服は寝台の下にひとかたまりになっていた。もちろん、自分で脱いだ記憶はない。誰かに脱がされた、と考えるのが筋だろう。誰かとはこの場合、リンしかありえなかった。
「おまえ、竜鱗香で酔っ払っていただろ?」
「竜鱗香?」
 リンは眉根に皺を寄せる。ハッとした顔になる。思いだしたらしい。両頬を手でくるむ。その拍子に寝衣の肩がずり落ち、彼女の見事な胸のふくらみが全部あらわになった。
 レギウスは礼儀正しく視線をそらす。リンに背中を向けて、床下に落ちていた自分の服を拾い、手早く身につけてとりあえず最低限の威厳を取り戻す。
「わたし……よく憶えていません。ジスラといっしょに食事したことは憶えているんですが……」
 レギウスはリンに向きなおる。リンの顔に困惑の表情が広がる。うっすらと涙ににじんだ目がいたずらに宙を泳ぐ。
「食べ物に竜鱗香を盛られたんだ。おまえ、酔っ払っておれの部屋に来たからな」
「レギウス……お腹に血がついています」
「おまえが全力で抱きついてきたからな。背骨が折れなくてよかったよ」
「……ごめんなさい。わたし、自分がなにをしたのか、まったく思いだせないんです」
「なにかしたのか?」
「え? いえ、あの……まだのようです」
「まだって、なにが?」
「あう……」
 リンは耳まで真っ赤にしてうつむく。
 そうだろうとは思った。体調に特段の変化を感じなかったからである。
 リンと体液を交換していたら、それがふたりを結ぶ媒質となっていままで以上に彼女の存在を強く感じるはずだ。
 いまは普段と変わらない。左のてのひらに刻まれた五芒星(ごぼうせい)の刻印も黙りこんでいた。
「たぶん、契りを結ぼうとして……でも、レギウスが目を覚まさなかったんだと思います」
「…………」
 だからおれは素っ裸になっていたのか、とレギウスは納得する。さすがに意識のない状態では行為も無理だったんだろう。もっとも、朝のこの時間帯だったら意識はなくても自然な生理的反応があるから、どうにかなっていた可能性もあるが……。
 あられもないリンの姿を見ていると、抑えようのない衝動がこみあげてくる。薄い寝衣の下に銀髪の少女の身体の線が透けていた。
 豊かに張りだした胸とくびれた腰。はだけた胸元からは胸の深い谷間がのぞいている。リンの身体から立ちのぼる甘い汗のにおいと雪中花の芳香がレギウスの情動をいたく刺激した。
 欲情が沸点を突破する前に、レギウスは強引にリンから視線を引きはがした。寝台から腰を上げる。背中と腰が痛む。まるで一晩中、階段を上り下りしたあとのような疲労感が全身の筋肉にまとわりついていた。
「うまい朝飯でも食わせてもらうか」
 意識して明るい声を出した。リンが目をしばたたく。彼女の顔がゆっくりとほころんだ。
「はい、そうですね。でも、竜鱗香はもうこりごりです……」