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紅装のドリームスイーパー

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Dream Level.7 ──創夢


 あたし。
 あたしは、芽衣。
 
 ハッとする。
 あたしは教室のなかにいた。
 整然と並んだ机と椅子。優雅な筆跡の英文がつづられた黒板。教室を満たす灰色の光。
 あたしは教室のなかほどの席にぽつねんと座っていた。周りを見回した。あたしのすぐ隣の席に、城南高校の制服を着た女の子が座っていた。
 ピンク色の縁のメガネにつりあがった目。とがった顎。
 梁川澪だ。ルウが現実世界にいたあいだ、姿を借りていた女の子。
「来たな、芽衣」
 と、梁川。ルウの野太い男性の声ではなく、耳に心地よいアニメ声で。
「……って、ルウなの?」
「いまはもうその名前じゃない。ルウは葵が名づけたものだ。いまの私は梁川澪だよ。この姿もそうだ」
 あたしは目をパチクリさせる。
「そう。黒ネコはやめたんだね」
「もともと黒ネコじゃなかった。だから、その言い方は不適切だ」
「はいはい、わかりました。今度からはあなたのことを澪って呼べばいいのね?」
「フム。なんとなくしっくりこないが、そのうち慣れるだろう」
「で、梁川澪って誰なのよ? モデルがいるんでしょ?」
「ラノベに登場する少女の名前だ」
「……はい?」
「まあ、実際にはまだ書かれていないんだがね。特別に教えてやろう。きみの姿のもとになった少女──あのラノベを書いた作家は、くしくも私のゲシュタルトに属してる。彼は夢のなかでたびたび梁川澪の夢を見てるんだよ。どうやら次回作のヒロインらしいな。それを拝借した。そのうち、彼が書くラノベに登場するだろう」
「なんでまたそんなことを?」
「言ったはずだ。新城翔馬が喜ぶだろうと思ってね。とても気に入ってくれたようだから、しばらくはこの姿のままでいることにしたよ」
「…………」
「お望みならば、もっと胸を大きくすることも可能だが?」
「いいです。あたし、女だし。翔馬の趣味を持ちこむつもりはないからね」
 澪は唇を三日月形に曲げてフフと軽く笑う。無愛想な黒ネコでいたときに比べると表情の表現が格段に豊かだから、つきあっていくにはこれはこれで少々厄介かもしれない。
「ところで、もうひとりのドリームスイーパー候補だが……」
「は?」
「もうすぐここに……おっと、しゃべってるあいだに到着したようだな」
 がらんとした教室の廊下側の前方──そこに光の球が生まれた。白い光がパッと飛び散って、中心に人影が凝り固まる。
 椅子に浅く腰かけ、黒板を所在なげにながめている少女。
 少女がわれに返った。周囲に視線を配る。
 驚くほど葵によく似た少女だった。一瞬、葵かと思ったぐらいだ。よくよく観察すると、葵との違いがわかってきた。葵の漆黒の瞳と違って、彼女の瞳は明るい琥珀色だった。豊かな黒い髪も葵ほど長くはなく、肩甲骨の下に届くぐらいの長さしかない。
 少女があたしと澪に気づく。目を大きく見開いた。
「……あれ? 翔馬?」
 そのひと言で、彼女の正体が判別した。葵に似ている理由も得心できた。彼女は、葵──島幸恵さんの能力を引き継いだのだ。夢見人(ゆめみびと)としての能力を。
「新しいドリームスイーパーの候補だ」
 澪が微笑む。
 あたしも笑みを浮かべた。
 まだキョロキョロとしている少女に、あたしはふんわりと呼びかけた。
「こんにちは。あたしの名前は芽衣。ドリームスイーパーの芽衣よ。あなたの名前は?」
「……わたしの名前?」
 少女はとまどう。あたしと澪をじっと見つめて、きれいな笑みを浮かべる。
 少女はしっとりとした声で、宣言した。
「わたしの名前は……」