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紅装のドリームスイーパー

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 尖兵の頭上を飛び越え、錆びついた歩道橋の欄干に着地した。ルウが空中で身をひるがえし、葵の右肩の上にストンと降り立つ。あたしは呆然と自分の足元を見やる。葵が手助けしてくれたとはいえ、幅が十センチぐらいしかない欄干の上にバランスを崩すことなく立っている。サーカスの曲芸並みの離れ業だ。
 歩道橋の下で尖兵たちがうごめいていた。あたしたちを見失い、ウロウロと右往左往している。どいつも上を見ようとしない。ルウが言っていたとおり、どうやら知性というものがまるでないらしい。
 そのとき──
 二十メートルほど離れた電柱のてっぺんに、黒っぽい影が優雅な身のこなしで舞い降りた。
 尖兵じゃない。がっしりとした体格の男──のように見えた。男は、黒一色の装いで身を固めていた。ぴっちりと着こなした黒い上下のスーツ。襟元には黒のクラバット。手には黒い手袋。まるでコウモリの翼のような黒いマントがゆらゆらと揺れている。そして、顔は──右目の下に銀色の涙滴を描いた白い仮面で覆われていた。
 黒衣の男を目にした瞬間、背筋に冷たいものが走りぬけた。根源的な恐怖というものを擬人化した存在があるとすれば、いま目の前にいる男がまさしくそれであった。
 葵がハッと息を呑む。斬夢刀を正眼にかまえた。
 ルウが背中の毛を逆立てて、低いうなり声を洩らす。
「……なんなの、あいつは?」
 男を見据えながら、あたしはルウに小声で尋ねる。いままでなにがあっても無感動だった黒ネコが、声色に苦々しげな響きをにじませて答えた。
「あれこそがわれらの敵──夢魔だ」
 それが合図であったかのように、黒衣の男が突然、突進してきた。空中を走る。そこに目に見えない橋でも架かっているかのように。
 葵の警告の叫び声にルウの緊迫した声が重なった。
「いかん! 芽衣、逃げるんだ!」
「逃げるって……」
 どこへ、とは最後まで言えなかった。
 あたしの身体が急速に浮上していく。
 上へ、上へと落ちていく奇妙な落下感覚が襲ってきて──