感染
第四章さらばクルクルパー
待ち侘びた
給料日
大盛つゆだく
牛丼ふたつ
帰宅した部屋
クルクルパーの
姿はなく
点滅する電話機の横に
丸めたパンツが
佇んでいた
再生ボタンを押す
感情のない
アナウンスが流れる
『メッセージは12件です』
ピー………
一件目
『退屈は嫌いよ』
消去
二件目
『元気なの?』
消去
三件目
『またアタシと遊んでよ』
消去
四件目
『貴方の為に何かしたいのだけど』
消去
五件目
『貴方の元気がないのは哀しいの』
消去
六件目
『元気に病んでる貴方が好き』
消去
…十一件目
『だから貴方の死も決して口にしない』
消去
十二件目
『深く共同作業できる作品をつくりたい
あなたとならできると思う』
メッセージは以上です
もう一度聞く場合は
再生ボタンを押してください
ピー………
消去
誰もが羨む容姿端麗
詰め込まれた
偉人達の知識に
埋もれた脳
既製品
造形美術
造形芸術
真髄のない
マネキン人形
天才肌で偽造した
奇才域
異色の語源を
繋ぎ合わせても
色彩がない
無色透明
無味無臭
指先から
擦り抜ける髪
擬態化する
実感がない
体温を感じない
装飾する言葉に
籠められた
魂が霞む
言霊として
生きていない
刻み込まれた彫刻
打ち出された銅版
血濡れたの匂い
君なら書ける筈だ
アトリエに置かれた
石膏の銅像を
デッサンしても
意味はない
聖書に書かれた
聖人達を崇め
踊り子を演じ
娼婦を真似る
聖女
俺には
気高さだけが
鼻につく
貴賓だけが
浮き彫りになる
蝕んだ世界
地割れに挟まれ
切り刻まれる皮膚
嘲笑う巨神に
捻り潰される拳の中で
砕かれる骨と
破裂する内臓が奏でる
不屈な音を聴きながら
死と恐怖が
血飛沫となり
降り注ぐ
呻き声の
充満する俺の世界で
妖精のような
微笑を隠し
妖艶である君とは
同化出来そうにない
『深く共同作業できる作品をつくりたい』
君は俺を誤解している
君と共有出来る知識を
俺は持ち合わせていない
俺は
クルクルパーと
同じ人種だ
全身全霊
身を焦がしても
譲れないモノがある
答えは単純
生身のエロだ
官能を堪能する
エロスではなく
極有り触れた
何処にでも転がっている
単純な愛
脳を刺激する
艶やかな裸体で
感覚を麻痺するより
不自然なポーズで
濡れまくる
淫靡な窪みに
感染する
崖に咲く
幻の華より
道端で踏み潰された
雑草がいい
環境を整え
栽培の肥料を
与え続ける華より
泥水を吸い
貪欲な根を這わせ
僅かな陽射しを貪る
無欲の雑草に
惹かれる
高山に咲く
幻の華より
人通りの激しい
無限にある路肩に咲く
無数の雑草に紛れた
小さな草を
探し出す方が
大変なんだ
行く当てもなく
浮遊する
クルクルパー
もう二度と
俺の前で
ハート型の葉を
揺らす事は
ないだろう
無機質な通信機から
電磁波の風が吹く
君の声が
鋭利な刃先を
振り翳し
俺の部屋から
クルクルパーを
吹き飛ばして
しまった
さらば
クルクルパー