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サンタとまん丸お月さま -クリスマス編-

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「こんにちは、岬 詩織と申します」

「ど、どうも……初めまして。藤木源太郎 五十三歳、趣味は将棋……。と、特技はイ、インターネットでサーフィンを少々……」

「父ちゃん! パソコンなんて触ったことないじゃない。もうっ、何で嘘つくのよ」


そこへ、暖かいお茶を運んできたサチも加わることとなった。


「あ、幸さんね 初めまして。三ちゃんから話はよく聞いてて、私早く会ってみたかったの」

「ほんとですか? 私も兄ちゃんのこと選んでくれる殊勝な人って、一体どんな人なのかなぁって……」

「おいサチ! それじゃあ俺が詩織に選んで貰ったみてぇじゃねえかよ」

「え? そうじゃないの?」

「まぁ、違うとも……言いきれねぇけどよ」

「ほら見なさいよ! こんな美人から兄ちゃんを好きになるなんてこと、あるわけないじゃない」

「幸さん違うの。本当は私から、三ちゃんのことを好きになったの」


『えーーーーー!!』

〈ブーーーーー!!〉


「何で兄ちゃんが一緒に驚くのよ! もう父ちゃん! お客様の前でお茶を吹き出さないでーー!」


詩織の爆弾発言でその場は一気に和んだが、若い娘を前にした父ちゃんは案の定上手く喋れない。

今がチャンスとばかりに、俺達は今までの経緯と俺達なりのこれからの考えを話した。

当面は一人暮らしの詩織のアパートで一緒に暮らそうと思っていること。

結婚式や披露宴は、少ない貯金や詩織の身体への負担も考えて、するつもりのないこと。

詩織の両親へも、これから二人で話しに行こうと思っていること……。


それまで黙って話を聞きながら、ただ茶をすすっていただけの父ちゃんが、このタイミングで急に俺を睨んだ。

ただでさえおっかない顔に目ヂカラを込めると、その迫力で裏の神社の仁王さんも下駄をほっぽらかして逃げ出すくらいだ。


「ちょっと待て二人共。それじゃあ何か、詩織さんのご両親はまだこのことを何も知らないってぇのか?」

「はい。三ちゃんと話して、まずお父様にご報告してからウチには行こうと。たぶん私の親は大丈夫です。ビックリする位の放任主義で」


詩織の言葉を聞いた父ちゃんは、くるりと背中を向けてしまった。


「はぁー。母ちゃん聞いたかい? やっぱり男親だけじゃあダメなのかねぇ。一緒に門出の報告を聞けると思ったらこれだよ」

「なんだよ父ちゃんまたかよ? 今度は一体全体何が気に入らねぇってんだ」

「三太!」

「あん? ……痛てっ!」


こっちを向き直した父ちゃんに、俺は一発デコピンを喰らった。



「三太、俺じゃねえよ」

「え? 俺じゃねぇって?」

「おめぇは優しい奴だが、どうも順番を間違っていけねえ。大事な娘さんを貰うんだ、ここはイの一番に詩織さんのご両親に挨拶に行くのが筋だろう。いいか三太?」

「あ、あぁ」

「世の中はなぁ、間違えちゃいけねぇ色んな順番で成り立ってる。いろはにほへとにあいうえお、目上目下、上座下座、あの世に逝く順番だってそうだ。親より先に死んじゃあならねぇ。うちの商品の金物だって順番を守って使うから家を支えてんのよ」

「で、でも父ちゃんに報告した後この足でちゃんと俺達は……」

「でももヘチマもねぇんだよ。まず詩織さんのご両親んとこ行って、大事な大事な娘さんを結婚前に妊娠させちまった事を謝るんだ」

「さっき赤ん坊は宝だって言ったとこじゃねえか」

「それとこれとは話が別だ。なぜってよ、ご両親にしてみりゃぁー詩織さんがその宝だからよ。だが、俺はよく言う娘を傷モノにしちまったって言い方は好きじゃあねぇし思わねえ。順番を間違えた事をお前は素直に誤ってくりゃいい、そんで一発殴ってもらって来い。……いや、待てよ?」


父ちゃんが何か考え出すと、とんでもないことを言い出しそうで俺とサチはいつもドキドキするんだ。


「俺も一緒に行ってやる。三太、運転しろ! おいサチ、スーツ出してくれ」

「いいってやめろよ! 俺もう二十五だぜ。ガキじゃねえんだから大丈夫だって」

「そうよ父ちゃん、ここは兄ちゃん達に任せたほうがいいってー」

「親にとっちゃ子供なんてずうっとガキのままなんだよ。いいから詩織さんも、さぁ立った立った。あぁーっといけねえ、ゆっくりゆっくりな」

「もう言ってることがメチャクチャじゃねえかー!」


言いだしたら絶対に譲らないのがうちの父ちゃんだ。反論するだけ無駄なのが俺達の体には染み付いている。

ダメだダメだと言いながら俺は車のキーを取りに行き、サチはスーツにアイロンをかけ始めた。

そこからがまたドタバタの珍道中だったわけだが、最大の問題は詩織の家の前までもうそこという所で起きた。


「へー、詩織さんはこの辺りの生まれだったのかい?」

「はいそうなんです。高校は寮生活で、大学で独り暮らしを初めたから早くに出ちゃったんですが、やっぱり生まれ育ったここが今も一番好きですね」

「そうだろうそうだろう。俺の世話んなってる社長も、丁度この辺に住んでるんだよ。歳は近いんだが、頑固な職人さんでねぇ。独立したばっかのウチから金物をお祝いだって大量に仕入れてくれてよぉ」

「あ……はい」

「嬉しかったなぁー。今でもこの俺が頭が上がんねえのはあの人くらいのもんよ。もっぱら最近じゃあ配達は三太に任せちまってるもんで、会えてねえんだけどよ。元気かなぁー、ミサキ建具の社……ちょ」


丁度その時、俺は三人で乗っている箱バンを『ミサキ建具』の看板前で止めた……ドキをムネムネしながら。


「ことに岬詩織さん……」

「は、はい!」

「もしかして……まさかそんな事はないと思いますが、あなたのご実家はこちらで?」

「その……」


詩織がチラッと俺を見ながら言った。


「まさか……です」

「エヘッ」


「エヘッじゃねーー三太この野郎!! てめえ大事な大事な社長んとこのお嬢さんに手ぇ出しやがって! それを早く言いやがれってんだ!」

「早く言えつったって、父ちゃんそんな事ひとっことも聞かなかったじゃねえかー」

「バカ野郎! 知ってたらこんなとこまでノコノコ付いて来るかよ。おりゃーどのツラ下げて社長に挨拶すりゃーいいんだよ! 詩織さんも詩織さんだぜ……し」

『し?』

「するってぇとあんた、しーちゃんかい? あの、あの工場でいつも泣きべそかいてた! 大きくなったなぁー、中学上がったっきり以来かぁー」

「お久しぶりです。あの……お家でも、初めましてって返せなくってごめんなさい」

「いやいいんだよ、嘘はいけねぇからよ。それよりまた、なんだってこんな奴とあのしーちゃんが?」

「一年前、久しぶりに実家へ帰ってる時に丁度三ちゃんが配達に来てて、戻るついでだからってアパートまで送ってもらったんです。その時の三ちゃんのお話が楽しくて、また会えたらなーって」

『へーー』

「だから何でテメエがいちいち一緒に驚いてんだよ! バカ三太!」

「そこから、ちょくちょく実家に帰る回数を増やしていって……ね? 三ちゃん」

「お、おう。いつもアパートに直接送ってってばかりだったからよ、たまには飯でもって俺から……な?」