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ヒトサシユビの森 3ナカユビ

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いぶきが失踪したいきさつを聴いた安田は、「早く手続きしたほうがいい」とかざねにアドバイスした。
やはり広範囲に捜索活動をするには警察組織の力が必要で、それがいぶきの身の安全につながる、との説明だった。
行方不明者の生存の確率は時間とともに低くなるからだ。
かざねは石束署内にいるであろう様々な人物の顔を思いだし、二の足を踏んだが、最終的には安田という人物を信頼し、捜索願を書いた。
捜索願を安田に手渡してホッとしたのか、かざねの身体が一瞬グラついた。亮太より先んじて、かざねを抱きとめたのは安田だった。
「ごめんなさい。ちょっとフラついただけ」
「溝端さん、昨日から一睡もしてないんでしょう。少し休んだほうがいい。あの、そちらの付き添いの方もご苦労さまでした」
「おい、俺は付き添いじゃない。坂口土建の山本だ。かざねのダチだ。付き添いって何なんだよ!」
安田に喰ってかかる亮太を、再びかざねがヒールの先でコントロールした。

稲荷山の麓で老婦がいぶきらしき幼児を見たという情報を安田が入手したのは、その日の夕方であった。
郵便配達員が老婦から聞いた話として、地元の駐在警察官に伝わった。
老婦が暮らす里山の村と石束市街の距離は、10キロ以上離れていた。4歳の子どもがその距離をひと晩で歩いたのか、それとも他に移動手段があったのか疑問を感じたまま、安田は病院に戻って休んでいたかざねに連絡をとった。かざねは気丈にも同行を申し出た。
覆面パトカーを走らせて、安田とかざねは老婦のもとに出向いた。
老婦の話を聞いた後、安田がかざねに尋ねた。
「どうですか。いぶきくんに間違いなさそうですか?」
「ええ、間違いありません。服装もそうですが、いぶきウルトラマンが大好きな子なので」
「ウルトラマンか・・・懐かしい」
「とにかく、いぶきが生きてるってわかっただけでも・・・。」
かざねは安堵した。
「でもなんでこんなところまで?」
村に駐在する赤ら顔の制服警官が新しい情報をもってやってきた。
「登山口の石の鳥居のところで、山菜取りのおばあさんが手配書の服装にそっくりな子どもとすれ違った、と」
「子どもはどっちのほうに歩いていたか、わかりますか?」
「はあ、神社のあるほうに向かって歩いていたようです」
安田は無線で手の空いている部下を数人呼び寄せた。
夕陽はとうに山影に沈んだ。日の名残りがかろうじて西の稜線に残っていた。
登山口の鳥居前に移動した安田は、かざねをパトカーに残し、数人の部下を引き連れて、いぶきを捜すため、稲荷神社の参詣道を登り始めた。
樹木の緑が闇の色に溶けていくなか、数個のライトが蛍火のように明滅しながら頂上目指して登っていく様を、かざねは車の中から祈るような気持ちで見つめた。


つづく