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daima
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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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「あ、あのですねぇ ヒガヤン君。ジャカルタ大先生は、僕たちアハァを残して お家に帰られたそうです」

「えぇーーーー!! 俺らの貴重な放課後に 居残り勉強させておいて 自分は授業終わりに定時で帰ったのぉ?それが多感な小学五年生を預かる担任教師のする事かぁ!最低な奴やなぁ!」

「お前、めちゃ喋れてるやん!」


怒りが頂点に達した時、吃音癖もどこへやら 高速のトーク力で相手を罵倒する、スーパーヒガヤンがここに誕生した。


あまりにバカらしくなった俺達は、ジャカルタの机の上にプリントを置いて さっさと帰宅する事にした。

この後は、待ちに待ったロープウェイである。無意識に、歩く速度も速くなっていた。


「なんやー? 珍しい組み合わせやなあ? 二人で急いで何処に行くんだぁ?」


先に帰宅していた同じクラスの スポーツ少女アッコが、俺達を見つけて 不思議そうに話しかけてきた。


「あぁ、今からヒガヤンのオトンに頼んで、ロープウェイに乗せてもらうんだっちゃ。お前も来るかぁ?」

「まさか!あんたと一緒にロープウェイなんか乗ったら、カコに嫌われるわ!」

「……」


あの雪合戦の一件以来、俺とカコは すっかりクラスの公認になっていた。

そして、このての事を言われても 自分の気持ちに気づき始めていた俺は、強く否定も出来なくなっていた。


「お、お父さん、い、居ますか?」


ロープウェイのスタート地点である 山麓駅に到着した俺たちは、平日だからか客も疎らな待合室で ヒガヤンのお父さんを待つ事にした。


「なんや純一、駅に来るなんて珍しいなぁー。お? 友達か?」


少し緊張しながら しばらく待っていると、ヒガヤンのお父さんが来てくれた。

小柄ながら パリッとした帽子と制服に身を包み、他人の命を預かる運転士という職業の人が持つ、特有のオーラを放ちながら。


「かっこえぇーー」


思わず俺がもらした言葉に、ヒガヤンは誇らしげだ。


「その顔は、島井君やなぁ?」

「はい!こんにちは!」


母親のいないヒガヤンの為に、学校行事にも よく顔を出していたお父さんは、俺の顔を覚えてくれていた。


「今日は どないしたんだ?」

「あんな……」


二人でロープウェイに乗りたい事をヒガヤンが説明すると、お父さんは快く了承してくれた。もちろん、居残り勉強してきた事は黙っておいた。


「そんなもんは お安いご用や!純一、あっちに山頂の案内パンフレットがあるから、島井君の分も取って来なさい。」

「う、うん! あり、ありがとう!」


ヒガヤンは、嬉しそうに駆け出していった。


「島井君。ちょっとえぇか?」

「え、あ……はい」

「君は、たいそうな悪ガキらしいな」


きたか……と思った。大人が俺にこういう風な話の切り出し方をした時、大抵は 耳を塞ぎたくなるような事にしかならないのだ。


「まぁ……。アハァな……しゃーたれです」

「純一が、家でいつも君の話をしてるんや」

「はぁ……」


俺がヒガヤンと学校で喋ったのは、今日を除けば数える程度、もちろん 一緒に帰ったのも今日が初めて、ピンと来ないのも仕方のない話だった。


「今日シマダイ君が誰々とケンカしてた、こんなイタズラをして 先生に怒られてた」

(やっぱりか……)

「僕も、僕もあんな風に強くなりたい」

(!?)

「あんな風に強くなって、もっともっと、いっぱい友達と喋りたい……てね」

「……」

「あいつは言葉を話すのが苦手や、俺のせいかもしれん…。そのせいでか、イジメみたいになっとった事も 先生から聞いて知っとる。島井君、純一の事、これからも……」

「ヒガヤンのオッチャン!」


ヒガヤンのお父さんが話しきる前に、俺の口から言葉がついて出た。今にも溢れそうな オッチャンの涙を止める為に。


「俺らのクラスの花壇の花が、よそのクラスの花より元気に咲いてるのは、アイツが 他の奴の分も黙って水をやってくれてるからです。

俺らのクラスに 落し物が少ないのは、アイツが拾って、そっとロッカーにしまってくれてるからです。そんなヒガヤンが、俺は大好きです」

「そ、そうかそうか……そうなんか」


残念ながら、俺はオッチャンの涙を止めるのを失敗した。でも、それがさっきと違う涙だという事は、小学生の俺にでもわかった。


「よっしゃあ! 今日のロープウェイは 超特急やでぇーー!!」

「ちょ、ちょっと! それはやめてぇなーー!」


俺達が大笑いしていると、ちょうどヒガヤンが戻ってきた。すっかり打ち解けている様子の俺達を見て、不思議そうな顔をしている。


「な、何なん!?」

「何でもないわいや 純一。なぁシマダイ君!」


背中をボンッと叩かれた。


「痛た!ちゅうか、オッチャンもシマダイ君言うてるし」

「おっと、そろそろ発車の時間だわ、乗った乗った! ちょうど二人の貸切や」


お父さんに促され、俺達はロープウェイに乗り込んだ。運転士と言ってもロープウェイには同乗しない。

正面の操作室から、ケーブル操作をする為だ。ガラス越しに見えるヒガヤンのお父さんは、益々かっこよかった。


「しゅっぱーーつ!」


真っ赤な車両のドアが締まり、片道7分間の空中散歩だ。遠くに、小谷川が見えている。


「なぁ、シ、シマダイ君」

「え?何だいや?」


外の景色に夢中になり、顔面を窓ガラスに押し付けながら 俺はヒガヤンに答えた。


「さ、さっき、お父さんと、な、何を話しとったん?」

「何でもないっちゃ」

「ふーん。あ、あんな……」

「おーん」


俺は顔を窓ガラスから外し、ヒガヤンの方を向いた。


「さ、最近、僕が ドマソンに、ちょ、ちょっかい出されへんのは、シマダイ君が た、助けてくれたんやろ?」

「え?そんなん知らんでぇ 俺」

「つ、剛志君が、教えてくれたんで。アイツは絶対に、自分からは言わへんから、そ、その事だけ知っといたってくれって」

「なるほどな、ツヨっさんかー。まぁーでも、ドマソン家もオモロかったしな、気にすんな!」

「うん、あ、ありがとう」

「そんな事より、お前のオッチャン、めっちゃかっこええやん」

「うん、ぼ、僕も大きくなったら、お父さんみたいな、う、運転士になるんが夢なんや」


これでもかという程 キラキラした瞳で、ヒガヤンは答えた。


「あ!いっしょやん! 俺もオトンみたいな大工になるのが夢だで。いや、絶対なったるけどな。」

「そしたら……」

「おぉ、また……競争やな?」

「う、うん。競争やな!」


今度の勝負に罰ゲームはない。俺達が、その夢を 本当に叶えられるかどうかも、まだわからない。

でも……。

目標を見失う事はきっとない。夢の目印の背中は、あんなにも大きいのだ。