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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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城咲中学校には、城西小と川向こうの城東小の2校の生徒とが、入学して通う事になる。

ドヤ顔のドマソンはさらに続けた。


「ほんでも、お前も知っとるだらぁけど、ワエにはツレがおらへんやろ?」

「おらへんなぁ」

「ハッキリ言うなや ボケ」

「あんたが先に言うたんやん」


言葉だけはキツイが 自分の家という事もあってか、どことなくドマソンも穏やかだった。


「締めた半分は お前にやってもえぇ。ワエの右腕になってくれへんか?」

(!?)

「ちょ、ちょっと待ってぇな。だいたい俺、一個下だで」

「そんなもん、わかっとるがな。ほんでも ワエの同級はアカン。根性ない奴ばっかりだわいや。

ほんだし、さすがのワエも 一年でいきなりは無理かもしれんしな。地固めしといて、お前が中学来たら 一緒にドカンや。」

(ドカンって…。それに 地固めって何だいや)


ドマソンは、夢の話でもするように 目をキラキラとさせていたが、正直 俺には全く響かない話だった。

だいたい 勘違いしているようだが、俺は好きこのんで ケンカばかりしているわけではなかった。

そこには何かしらの理由が必ずあったし、意味もなく人を殴る事は大嫌いだった。

そこは、ツヨっさんも同じはずだ。


(そうだ、ツヨっさん!)


「ちゅうか、何で俺だけなん?根性だったら、俺よりもツヨっさんの方があるで」

「あいつはアカン」

「何でぇ?」

「あいつは イケメンだで アカン!」

(!?)

「俺はどうなるんだいや!」

「お前は程良いから、合格や!」

( ・・・・・・・!!!)


ドマソンが親指を立て、気持ちの悪い笑顔で こちらを見ている。


「俺の顔面見て、グッジョブみたいな顔すんのやめろや!」


この瞬間、俺の心はハッキリと決まった。


「お断りします」

「何でだいや! 二人で てっぺん取ろうでぇ!」


冗談ではない。よしんば中学統一が成ったとして、こんな歳からドマソンとつるみ続ければ、そのまま本職の道へ……なんて事にもなりかねない。

それは困る。俺にはオトンの跡を継いで、立派な大工になるという夢があるのだ。


「わかった、ほんなら刀、刀ちょっと触ってみぃや!」


それとこれとは話が別だとは思ったが、刀の誘惑には、どうしても勝てなかった。


「触るだけだで? ほんまに触らして貰うだけだで?」


俺はそう言いながら居間に移動し、ドマソンに促されるまま 初めて刀を抜いてみた。


「おお〜〜」


思わず声が漏れた。さすがに飾り用の模造刀だろうが、なにぶん場所が場所だ。

腕全体に伝わるズッシリとした重みと 緊張感が、俺の心を躍らせた。


「振ってみいや」

「いや ええっちゃ」

「ええから、振ってみいや!」

「ホンマにええっちゃ!!」


お互いどんどんムキになり、ついにはドマソンが俺の手元から刀を奪い取った。


「刀は、こう降るんだわいや! チェエストーーー!」


次の瞬間、刀の先っぽが高級そうな堂前家のソファーにブスリと刺さった。


「あぁ!!」

「最悪やあーー! 親父に殺されるぅーー!!」


ドマソンが うろたえている。この家で、殺されるという言葉ほど、聞きたくない言葉はなかった。

俺達は、慌てて刀を鞘に収め 元あった棚に片付けた。幸いソファーも刺し傷程度だったので、セロハンテープで応急処置をした。


「お前のせいやぞ!」

「何でだいや! 刺したのはドマソンやんけ!」

「アホか、お前に触らせたったから、こうなったんやんけぇ!」


普通の奴ならゴリ押しでいけそうだが、相手はドマソンだ。それに、実際に自分も刀に触っていた以上、全く責任がないとも言い切れなかった。


「もし これが親父にバレたら、俺達は絶対にバチバチにされる。ほんでも、さっきの中学の件を のんでくれたら、お前の事は絶対に言わへん。」


困った。 どうにも 上手く言いくるめられた感じが拭えないが、ドマソンの親父は怖すぎる。なんてったって、本物の“オヤジ”だ。

ただ、このまま向こうのペースだけにハマるわけにもいかない。


「わかった。ほんだけど 俺の条件も一個だけ聞いてくれへんか?」

「何だいや? 言うだけ言うてみいや」

「ヒガヤンを 解放したってほしい」


ヒガヤンとは、俺と同じクラスの気の弱い奴で、事あるごとにドマソンの餌食になっている 一番の被害者だった。

前々から、何とかしてやらねばと思っていたのだ。

ドマソンからすれば思いがけない提案だったらしく、暫らく考えた後にこう答えた。


「わかった。アイツにはもう絡めへん」


意外にあっさりと話がついた事に驚いた。中学のてっぺんとは、それ程までになりたいものなのか。


「ホンマやなあ? 約束やぞ」

「ホンマだわいや、しつけえなぁ!」


ここまで来ると俺は、もう少しだけ ドマソンと腹をわって話がしたくなってきていた。


「それとなあ……」


「何でだいや! 条件は一個って 言っただらぁが!」

「ちゃうちゃう。これは条件じゃなぁて、俺の願望やけどな」

「あん?」

「俺にだって ツレを選ぶ権利はあるやろ? 俺は 弱いもんイジメる奴が 大嫌いだでな」

「ああ? 調子乗っとんなよ!ケンカ売っとるんか?」

「まあ聞けって! 嫌いっちゅうか、わからへんのんだけどな、何がオモロイのか」

「……」

「だってそうやろ? 絶対勝てるケンカしたって、何にもワクワクせえへんやん。 まして無抵抗の奴を殴ったって、この手が痛なって終わりやん」

「チッ。まぁ……な」

「俺が、ようけ ドマソンと今までケンカしてきたのだって、あんたが城西小で一番強いからだで」

「お、おう……」


ドマソンの鼻の穴がプックリと膨らんだ。だが、これはお世辞でも何でもない。

実際にドマソンは それほどに強かった……心以外は。


「ほんだで、明日から見とくわ。 約束した ヒガヤンの事だけちゃうで。 ドマソンが卒業までに、どんな男になっとるんか。 中学の話は、またその後しょうや!」

「お前 めっちゃ上からやなぁ。 ふん、まぁええ。 そうやな、そういう事に しといちゃるわ」


初めて本心を搾り出す作業に少しだけ照れをまといながら、ゆっくりと ドマソンは答えてくれた。


「ほんなら 今日は帰るわ。 また家呼んでや、絶対 お母さんがおる時にな!」

「うるさいボケ、早よ帰れ!」

「あーーー!」

「まだ 何かあるんかい!」

「金さん観んの 忘れてたわーー!」

「フッ。 お前って、ホンマ変な奴やな。バス停は、わかるんか?」

「わかる わかる! 余裕だで。 ほんなら またなぁー」


バス停……この男は、意外とツンデレなのかもしれないと、この時思った。

玄関を出た所でドマソンのお母さんが立っていた。


「ありがとうね……」


一言そう言って、頭をポンっと撫でてくれた。やっぱり、いい匂いがした。


              *