今宵サンタは軽バンで
ソリ替わりの軽バンを飛ばして、僕は一軒のお宅の前に駐車した。
ずいぶん古い家なので、チャイムもない。
「夜分にすいませーーん!こんばんわーー!おばぁーちゃーーん!!」
暫らく待っていると、奥から優しい声がした。
「はいはい、今行きますよ……こんな時間に どなたですか?」
「僕です。保険の担当でお世話になっています。今日はこんな格好ですが……」
「あらまぁー、驚いた!それに、ずいぶんお若いサンタさんですこと」
「突然こんな遅くにゴメンなさい。プレゼントをお届けに参りました」
「なんてこと、私に?」
「はい。妻の焼いたケーキなんですけど、よかったら……一緒に食べてもらえませんか?」
「まぁー嬉しい!こんなお婆ちゃんになってから、クリスマスにサンタさんからプレゼントが届くなんて。さあさあ、上がって下さいな、そうだわ、紅茶をいれましょうね」
この人は、僕が保険を担当するお婆ちゃんで、この家に独りきりで暮らしている。息子さんは都会に働きに出てしまって、もう何年も帰ってきていないらしい……。
訪問すると、いつも明るく色んな話をしてくれるお婆ちゃん。ホントは、寂しくてたまらないお婆ちゃん……。
「じゃあ、もう帰ります。紅茶、ごちそうさまでした。そうだ、お正月は妻と娘も連れてきていいですか?」
「ありがとう……本当にありがとうね」
お婆ちゃんはそう言って、最後に僕の手をギュッと包んだ。涙がポトリ……。お婆ちゃんの想いの雫。
軽バンに乗り込んだ僕は、先輩に電話をかけて今夜の出来事を話し、ある新しい提案をしてみた。
「来年から子供達に加えて、独居老人のお宅にもプレゼントを配れませんか?費用は、僕が市に掛け合ってみます」
先輩の返事はこうだ。
「バカヤロー! 俺の仕事を取るなよ。金の事は心配すんな、絶対に何とかするから」
来年のイヴは忙しくなるな。あいつにまた、謝らなきゃ……。
作品名:今宵サンタは軽バンで 作家名:daima