今宵サンタは軽バンで
12月24日。今年もこの日がやってきた。僕は普段、父と二人で経営する会社で保険の外交を担当してるんだけど、毎年この日には大切な予定がある。
所属する商工会青年部のイベントで、申し込みがあったお宅の子供達に、あらかじめ預かっておいたプレゼントを配達するんだ。もちろん、サンタのコスチュームを着てね。
今年一緒に配達するメンバーは七人。約六十件を受け付けてるから、一人頭ざっと八軒は回らなきゃならない。
完全にボランティアで予算の限りもあるから、お世辞にもクオリティーの高いサンタとは言えないと思う。それでも、毎年毎年子供達は、最高の笑顔で迎えてくれた。
いつのまにか僕は、今日という日が本当に楽しみになっていたんだ。
「スマンな、新婚さんをイヴの夜に引っ張っちまって」
「いやぁー、いいんです。クリスマスと言ってもウチの子は、まだ何もわからない赤ん坊ですし」
「おいおい、子供はそうでも 奥さんが寂しがってるんじゃないのか?」
「うーん……どうなんでしょう?付き合ってる時から、イヴと言えば商工会サンタになっちゃってますからね」
デキ婚……最近じゃぁ授かり婚って言うのかな。結婚して一年目、こないだ長女が生まれたばかりだった。
「先輩こそいいんですか?息子さん悲しんでるんじゃあ…」
「ハハ…ウチのボウズなんて、プレゼントさえ貰えりゃ 俺なんていない方がいいに決まってるさ。それに、青年部長の俺が、この大仕事をほっぽり出すわけにいかないだろう?」
高校の先輩でもある部長の指示で、それぞれの担当ルートが決まる。僕は今夜、駅通り方面を配達する事になった。
幸い保険の担当をしているお宅も多いエリアで、配達名簿に載ってる子供達の顔も何となく浮かんできた。
「あー、スマンがこの箱は、やっぱりお前が届けてくれ。ちょうどルート終わりに寄れるはずだ」
「え? あ…はい、じゃあ持っていきますね」
「頼んだ。さあさあ、子供達が楽しみに待ってる。みんな、今年も最高のサンタクロースになってきてくれ!」
三十センチ程の箱を追加で預かり、僕は出発した。もちろんトナカイなんて飼ってないから、今夜のソリは仕事で使ってる愛車の軽バンだ。
今年は暖冬で雪もなく、ロマンチックではないけれど、ハンドルを握らなきゃいけないサンタには仕事日和だったかも。
「サンタさん、ありがとう!来年も待ってるね~」
「ハハ、もう来年のこと!? 一年いい子にしてたらね! メリークリスマス!」
名簿最後のお宅に配達を終えた僕は、先輩から預かった箱の事を思い出した。
「うーんと、住所はっと……。あれ?手紙……僕宛!?」
何とこのプレゼントには、僕宛の手紙が付いていた。ひと目でわかる、丸っこくて見覚えのある字。僕の妻からだった。
『ジャーン!ケーキ焼いてみましたー!
ビックリした? ねぇビックリしたよねぇ?
サンタさん仲間と今夜の慰労会で食べて下さい。
初めて焼いたので味は保証いたしませんが、保険のプロのあなたなら大丈夫でしょ?
暖かくするんだよ。風邪ひかないでね。チビちゃんにうつったら嫌だから(笑)
ではでは、あなたには勿体無い可愛いすぎる妻より』
「フッ…あいつ……」
僕は携帯を手に取って、急いで先輩に電話した。
「せ、先輩!配達は完了しました!けど、慰労会はパスしてもいいでしょうか?」
「お? オーケーオーケー。想定内だ。素敵な奥さんにヨロシクな。そのケーキが味見できないのは残念だけど」
「やっぱり先輩もグルだったんですね、ありがとうございます。でも、違うんです!」
「うん? 何が違うんだ? 家に直帰するんじゃないのか?」
「はい、どうしてもこのケーキを届けたいお宅があるんです!」
半ば強引に会話を終えて、僕は携帯を切った。そして、次はちゃんと妻に謝らなきゃいけない。
「もしもし、僕だけど」
「はいはい、アタシですけど?サンタさん」
「ケーキありがと……。驚いたよ」
「でも、ホントに味は保証しないよ?」
「うん…それでね……ゴメン!!」
「え!?なんのこと?」
「今から、どうしてもこのケーキをプレゼントしたい人がいるんだ」
「……」
「もしもし聞いてる?」
「聞いてるよ。わかった……その相手も、何となくね」
「ホント?ありがと!ゴメンな」
「もうゴメンはいいから。だったら、急いだ方がいいんじゃない?もう結構な時間だよ」
「うん。行ってきます!」
相手がわかったって言ってたな、そういえば食事の時によく話してたか。
もうずいぶん遅い時間だ・・・まだ起きてくれてるだろうか?
所属する商工会青年部のイベントで、申し込みがあったお宅の子供達に、あらかじめ預かっておいたプレゼントを配達するんだ。もちろん、サンタのコスチュームを着てね。
今年一緒に配達するメンバーは七人。約六十件を受け付けてるから、一人頭ざっと八軒は回らなきゃならない。
完全にボランティアで予算の限りもあるから、お世辞にもクオリティーの高いサンタとは言えないと思う。それでも、毎年毎年子供達は、最高の笑顔で迎えてくれた。
いつのまにか僕は、今日という日が本当に楽しみになっていたんだ。
「スマンな、新婚さんをイヴの夜に引っ張っちまって」
「いやぁー、いいんです。クリスマスと言ってもウチの子は、まだ何もわからない赤ん坊ですし」
「おいおい、子供はそうでも 奥さんが寂しがってるんじゃないのか?」
「うーん……どうなんでしょう?付き合ってる時から、イヴと言えば商工会サンタになっちゃってますからね」
デキ婚……最近じゃぁ授かり婚って言うのかな。結婚して一年目、こないだ長女が生まれたばかりだった。
「先輩こそいいんですか?息子さん悲しんでるんじゃあ…」
「ハハ…ウチのボウズなんて、プレゼントさえ貰えりゃ 俺なんていない方がいいに決まってるさ。それに、青年部長の俺が、この大仕事をほっぽり出すわけにいかないだろう?」
高校の先輩でもある部長の指示で、それぞれの担当ルートが決まる。僕は今夜、駅通り方面を配達する事になった。
幸い保険の担当をしているお宅も多いエリアで、配達名簿に載ってる子供達の顔も何となく浮かんできた。
「あー、スマンがこの箱は、やっぱりお前が届けてくれ。ちょうどルート終わりに寄れるはずだ」
「え? あ…はい、じゃあ持っていきますね」
「頼んだ。さあさあ、子供達が楽しみに待ってる。みんな、今年も最高のサンタクロースになってきてくれ!」
三十センチ程の箱を追加で預かり、僕は出発した。もちろんトナカイなんて飼ってないから、今夜のソリは仕事で使ってる愛車の軽バンだ。
今年は暖冬で雪もなく、ロマンチックではないけれど、ハンドルを握らなきゃいけないサンタには仕事日和だったかも。
「サンタさん、ありがとう!来年も待ってるね~」
「ハハ、もう来年のこと!? 一年いい子にしてたらね! メリークリスマス!」
名簿最後のお宅に配達を終えた僕は、先輩から預かった箱の事を思い出した。
「うーんと、住所はっと……。あれ?手紙……僕宛!?」
何とこのプレゼントには、僕宛の手紙が付いていた。ひと目でわかる、丸っこくて見覚えのある字。僕の妻からだった。
『ジャーン!ケーキ焼いてみましたー!
ビックリした? ねぇビックリしたよねぇ?
サンタさん仲間と今夜の慰労会で食べて下さい。
初めて焼いたので味は保証いたしませんが、保険のプロのあなたなら大丈夫でしょ?
暖かくするんだよ。風邪ひかないでね。チビちゃんにうつったら嫌だから(笑)
ではでは、あなたには勿体無い可愛いすぎる妻より』
「フッ…あいつ……」
僕は携帯を手に取って、急いで先輩に電話した。
「せ、先輩!配達は完了しました!けど、慰労会はパスしてもいいでしょうか?」
「お? オーケーオーケー。想定内だ。素敵な奥さんにヨロシクな。そのケーキが味見できないのは残念だけど」
「やっぱり先輩もグルだったんですね、ありがとうございます。でも、違うんです!」
「うん? 何が違うんだ? 家に直帰するんじゃないのか?」
「はい、どうしてもこのケーキを届けたいお宅があるんです!」
半ば強引に会話を終えて、僕は携帯を切った。そして、次はちゃんと妻に謝らなきゃいけない。
「もしもし、僕だけど」
「はいはい、アタシですけど?サンタさん」
「ケーキありがと……。驚いたよ」
「でも、ホントに味は保証しないよ?」
「うん…それでね……ゴメン!!」
「え!?なんのこと?」
「今から、どうしてもこのケーキをプレゼントしたい人がいるんだ」
「……」
「もしもし聞いてる?」
「聞いてるよ。わかった……その相手も、何となくね」
「ホント?ありがと!ゴメンな」
「もうゴメンはいいから。だったら、急いだ方がいいんじゃない?もう結構な時間だよ」
「うん。行ってきます!」
相手がわかったって言ってたな、そういえば食事の時によく話してたか。
もうずいぶん遅い時間だ・・・まだ起きてくれてるだろうか?
作品名:今宵サンタは軽バンで 作家名:daima