恋するキューピッド
ん………やっと……目が……。
「あ!ほら見てQ、あの子が……あの子が起き上がったよ!」
……あれ!? なになになに? Qが消えちゃった……。それに、さっきのケイコってだれ?わかんない、全然わかんないよ!!
ねぇ神様お願い!見てるんでしょ?聞いてたんでしょ?何でQは消えちゃったの?サヨナラってどうして!!
『Pよ、愚かなPよ……聞こえるかい?』
「ハイ神様、聞こえます。聞こえますから教えてください!どうしてQは消えちゃったんですか!」
『落ち着いて聞きなさい。まずお前は、大きな勘違いをしているんだ』
「勘違い?勘違いって……」
『一級天使は、人を生き返らせる力があるわけじゃないんだ』
「え!嘘でしょ、だってアタシ聞いたもの……」
『一級天使とは、自分が再び生まれ変わる準備の期間なんだ。優秀なQは、もうとっくに生まれ変わっても良かったんだが、それを拒み続けた……何故だかわかるかい?』
「わ、わかりません……」
『無理もない……前世の記憶は、二級の間は戻らないからね』
「それって……、ケイコって……もしかして」
『そう、やっと気がついたね。Qは前世のお前の夫キョウスケ……ケイコとはお前が人間として生きてた頃の名前なんだよ。そしてQは待っていた、お前が一級天使になるのを……。一緒にもう一度生まれ変わる為にね……』
「ア、アタシ……何て事を、何て酷いことをQに……」
『そしてQは愛するお前の願いを叶えるために、自分があの子の人生の続きを生きようと決意した。それは仕方ない……だが、Qを止めてやれなかった責任は私にもある。特別に、お前の記憶のカケラを溶かしてあげよう……』
あぁーQ……、キョウスケ……あなたはこんなにも私を愛して、ずっとずっと守ってくれていたのに……。逢いたい、もう一度逢いたいよ……。
あなたに逢って謝りたい……そして、抱きしめさせて……。ゴメンなさい、本当にゴメンなさい……。
『愚かなPよ、いやケイコよ……後はどうすれば良いかわかるね?』
「はい!私、何年、何十年掛かってでもあの人を探します!そして、償いたいんです!」
『では、悪いが今日の記憶はいったん消させてもらうよ。これ以上、お前だけを特別扱いはできないからね』
「構いません。こんな私を待っててくれたキョウスケと真っ直ぐに向き合えるように……あの人と同じ道を通ってから再会したいんです」
『わかった。では、ゆっくりと目を閉じなさい……』
「はい……」
こうして私は、再び全ての記憶を失った。
キョウスケは、自分の生まれ変わるチャンスを棒に振ってまで、私の我儘を叶えてくれた……。
病院から退院した後、あの子としての人生を歩みながら、新たな誰かと出会い…そして、愛してしまうのかもしれない……。
それでもいい、必ず彼を……彼女を探し出してみせる。何十年、何百年掛かったとしても……。
*******エピローグ*********
ここは、とある緑豊かな老人介護施設。二月の十四日、今日新たに独りの男性が入居予定だ。
年齢は六十歳程だろうか。シャンとした背中の立ち姿は、施設に入居するにしては少し若すぎるようにも見受けられた。
「さぁー皆さーん、今日から新しいお友達が来てくださいましたよー。部屋番号Pに入居されるケイスケさんです」
「主任さん、あちらは?」
「部屋番号Qにいらっしゃるお婆ちゃんですよ。早くにご主人に先立たれて、もうここへ来て何年かしら?え、ちょ、ちょっと待ってケイスケさん!何処にいらっしゃるの!?」
「スミマセン……。たった今、天使に胸を射抜かれましてね」
その男性は真っ直ぐに前だけを見つめ、車椅子に座った八十路にも差し掛かろうかという老婦人の前に歩み寄った。
「これ、何だかわかるかい?」
「わかりますよ……五十年以上も待ってたんですもの。逆チョコで……友チョコで義理チョコでしょ?」
男性は微笑みと同時に涙を浮かべながら、しっかりとその女性を抱きしめた……。
「相変わらずバカQだなぁー。逆チョコで、本命チョコに決まってるさ」
〈了〉