ヒトサシユビの森 2.コユビ
2.コユビ
ひのき材のテーブルの端に、幼い男の子が指をかけている。
自らかけているのではなく、屈強な男たちに手足を抑えつけられ無理やりかけさせられているのだ。かけている指は右手の人差し指1本。
指の下には三つ折りにした白いハンカチが敷いてある。
小さなログハウスはさしずめ物置小屋だった。
大小のロッカーが壁の二面を占め、作り付けの棚には工具箱やロープの類が雑に積み上げてあった。ハメ殺しの窓には、厚手のカーテンが引かれている。外部の光は一切入らない。
木製の厚みのあるテーブルが室内の中央にドンと置かれ、その周囲を4人の男が取り囲んでいた。
小屋の梁に小ぶりなLEDランタンがふたつ吊るされていて、その灯火が小屋の壁に男たちの影を作る。
髭面の大男が節くれだったゴツい手で男の子の細い手首を押さえた。
男の子の手が動かないようきつく固定している。スーツ姿の男が小太りでやや猫背の男に合図を送った。
合図を受けた小太りの男は、深呼吸して医療用のメスの刃先についているカバーを外した。メスを持つ小太りの男の手が小刻みに震え、額に汗が光った。
銀縁の眼鏡をかけた男は、密閉されたプラスチックの虫かごを持ち上げてランタンの灯りに透かし見た。腐葉土が敷いてある虫かごの中に百匹を下らない蛆虫の群れがうねうねとうごめいた。
男の子は目隠しをされ、猿ぐつわをかまされていた。
歪んだ表情から怯えていることは明らかだった。テーブルに乗せられた指もまた、恐怖から逃れようと震えていた。
小太りの男はメスを持ったまま立ちすくんだ。すぐ隣に立つスーツ姿の男に対し、首を横に振った。
スーツの男は苛立ちを露わにし、小太りの男を突き飛ばした。そして男の子を抑えている髭面の男の腰に手を伸ばした。
髭面の男がベルトに装着している鞘からステンレススチールのサバイバルナイフを抜き出すと、それを白いハンカチの上に突き立てた。
間髪入れず男は、そのナイフの刃先を男の子の右手人差し指の付け根にまっすく振りおろした。
作品名:ヒトサシユビの森 2.コユビ 作家名:JAY-TA