ゴジラ
4. Beijing
ますます勢いを増したゴジラは大陸へと進みます。
しかし、ここでは予想外の敵と一筋縄では行かない指導者が……。
「主席、ゴジラがわが国へ侵入して来ました!」
「ヤツは何をしている? 北のお坊ちゃまは」
「わかりません、しかし平壌が跡形もなく消し飛んでいますのでおそらくは……」
「ちぇっ、使えねぇ野郎だな、二世も大概だったが、三世ともなるとどうにもならんな……だが、平壌が消し飛ぶほどの核爆発だ、そこを通って来たとあらばゴジラとて無事では済むまい」
「いえ……それが……成長しています」
「どういうことだ?」
「38度線辺りでも核ミサイルで攻撃したもようですが、その際も成長を」
「何だと?」
「主席、これを」
「なになに?……『怪獣大図鑑』だと? 貴様、俺をおちょくってるのか?」
「とんでもありません、ここの記述をお読みください……」
「う~む……なるほど、ゴジラは核エネルギーを食らうのか……核では撃退できないと言うことか?」
「現に北では失敗しています、いかがいたしましょう?」
「う~む……いや、待てよ? これは……」
「何か名案でも?」
「ほうっておけ……」
「は?……ゴジラを放置するのですか?」
「ああ……この図鑑をよく読んでみろ、ゴジラは普段どこに住んでいる?」
「……南海の孤島?……なるほど……ゴジラはきれいな環境で棲息していると言うわけですな?」
「ああ、わが国の環境には耐えられないだろうからな、直にどこかへ逃げ出すだろうよ」
「とりわけ都市部には近づかないでしょう」
「ああ、PM2.5の濃度が下がらないように気をつけろ、逆に上がる分にはいくら上がっても構わん」
「承知いたしました、そんなことなら簡単です」
「それと人民解放軍に出動命令だ、適当に砲撃するなりミサイルを撃つなりして追い払うポーズを取っておけ……ああ、ポーズだけで構わん、それよりもすぐにチャイナ・セブンを招集してくれ」
「はっ、しかし、ゴジラは放置と決定されたのでは?」
主席はニヤリと笑う。
「ああ、農村部の被害など微々たる問題だ、それよりゴジラをどう政治利用するかだよ……」
ゴジラは公害と低温を嫌う。
それを『怪獣大図鑑』で学んだ主席の読みは当り、ゴジラは都市部を避けるように南下して行く。
「主席、あと1時間ほどでゴジラはベトナムに抜けます」
「そうか、ここで一斉攻撃だ」
「え? ポーズだけで実質放置ではなかったのですか?」
「政治利用だよ、今ベトナムはゴジラの脅威に戦々恐々としているに違いない、ここで我が人民解放軍がゴジラを足止めしている内に西沙諸島の領有権放棄を迫るんだ」
「あっ、さすがです」
「その上でゴジラを退治すればアメリカに我が軍の力も誇示できる、総攻撃をかけても国際問題にならない相手などゴジラを置いて他にないぞ、一石二鳥だ、やれ!」
「はっ!」
しかし、主席はゴジラの実力の程を見誤っていた。
戦闘機は熱線で蝿蚊のごとく撃ち落され、戦車は尻尾の一振りでなぎ払われ、退治どころか足止めもままならない。
「くそっ、ゴジラめ、なんという強さだ、これでは交渉のネタにもならんじゃないか」
「しかし、まるで歯が立ちません!」
「わかっておる! このままでは貴重な戦力を失うばかりで得る物はない、撤退だ!」
邪魔者を蹴散らしたゴジラは更に南下を続ける。
危うし、ベトナム……。