ゴジラ
2. Seoul
東京を襲うも、さしたる見せ場も無く撃退されてしまったゴジラ。
しかし、怪獣王にこれでは余りに役不足、ゴジラは海を渡って隣国へと上陸します。
「大統領! 大変です、ゴジラが仁川港に上陸しました!」
「なんですって!? おのれ、チョッパリ! ゴジラを差し向けるなんて!」
「イルポンは関係ないんじゃ……ゴジラは東京も襲いましたし」
「チョッパリのせいに決まってるじゃないの、わが国の災難は全部そうなのよっ!」
「はぁ……直ちに軍を差し向けます」
「軍じゃダメよ、アレを使いなさい」
「アレですか? しかしアレはまだ……」
「まだ、なんなの?」
「イルポンのメカゴジラに対抗して突貫作業で完成したばかりでして、試運転もまだですが」
「構わない、チョッパリがメカゴジラで撃退したのよ、負けていられないわ」
「わかりました、ご命令を」
「テコンV-1、発進なさい!」
ソウル市庁舎……日本が統治時代に建設した旧庁舎を襲う津波をイメージしてデザインされた完成間もない新庁舎、その津波を模したガラスのファサードが前に倒れて砕け散り、テコンV-1がその雄姿を現した。
「ああっ! せっかくの新庁舎が……」
「いいのよ、ほら、ガラスの津波が日帝残滓の旧庁舎を飲み込んだわ、国民は快哉を叫ぶに決まってる、さあ、行くのよテコンV-1!」
テコンV-1は砕けたガラスを踏みしめて進む。
「え? 飛べないんですか?」
「ロシアが協力してくれなかったのよっ、もう!プーチンめ、金メダルを奪うだけで飽き足らずに……」
「主席にお願いすれば……」
「ダメよ、あそこのロケットはどこに飛んでいくかわからないもの、これが一番確実なの」
プスン……。
「どうしたって言うの!?」
「故障です!」
「何やってるの? クビにするわよ!」
「大統領、テコンV-1の修理が完了するまで戦闘機で足止めしては?」
「ダメよ!」
「何故ですか?」
「まともに飛べるのが何機もないってばれちゃうじゃない」
「では戦車で」
「ダメよ、橋が重量に耐え切れないもの」
「幸いまだ海っぷちです『独島』を出動させましょう」
「……航行できるの?」
「……いえ……エンジンがまだ……」
「もぉっ! 赤っ恥をかかせる気?早くテコンV-1を修理しなさい!」
テコンV-1の修理が急ピッチで進められるが、その間もゴジラは仁川の市街を踏み潰し、更に東に進む。
「大統領、修理完了しました!」
「よしっ、行くのよ!テコンV-1!」
再び動き出したテコンV-1はソウルの町を踏み潰しながら西へ進み、両者は漢江を挟んで相対した。
「今よ! ミサイル発射!」
「ミサイルは装着されていません!」
「どうして? ちゃんと予算をつけたじゃない!」
「…………」
「…………」
「ああ、わかったわ、大体見当がつくわ、誰かがポケットにしまっちゃったわけね……いいわ! テコンドー最高の必殺技、回転後ろ回し蹴りよ、技は派手な方がいい!……何をしてるの? 早くなさい」
「お待ちください、まず左足を固定いたしませんとバランスが保てません」
「何よ、それ! いいから早くなさい!」
もたついている間に漢江を渡り迫ってきたゴジラに、左足の固定を済ませたテコンV-1は華麗な回転後ろ回し蹴りを放とう身構えるが……。
「アイゴォォォォォォォォォォォォ!」
普段、格闘技にも怪獣映画にも慣れ親しんでいない大統領は、ゴジラの尻尾のリーチのほうが遥かに長いことに気付いていなかった……。