詩篇天竺浪人
星のさかずき
金星には、新聞記者が住んでゐて
まいにち取材をするそうです
泣いてる人をさがしては
「悲しいですか?」ときくのです
火星には、罪人が囚われてゐて
まいにち悔悛するそうです
じぶんの境遇に涙をながし
罪を正当化するようです
土星には、政治家が住んでゐて
まいにち嘘をつくそうです
えがおでみんなと握手をかわし
その手をハンケチで拭うのです
それじやあ、ここにはだれがゐる?
ここには、私がゐるじやないか
酒杯をかたむけ、火の酒をのどに流しこむ
あゝ本当だ!
私はここにゐた
残念だ
いや、ほんとうに残念だ……
水星には、軍人が駐屯してゐて
まいにち行進するそうです
戦車のわだちに水がたまれば
トンボが卵を産むらしい
木星には、乙女が隠れ住んでゐて
まいにち、さめざめ泣くそうです
たまに茶づけを三杯も喰って
そのあとやっぱり泣くのです
冥王星には、幽霊がゐて
まいにち家族を見てゐるそうです
じぶんの遺品が片づくたびに
気持ちがさつぱりするようです
それじやあ、ここにはだれがゐる?
ここには、私が住んでゐた
酒杯をあげても中身はからつぽ
あゝ残念だ!
もう、確かめようがない
残念だ
いや、まつたく残念だ……