レイドリフト・ドラゴンメイド 第25話 白旗騎士団
『偉人の像。絵画。レコード盤。映画のテープ。それらの再生機器。
どれも、50年前から作られなくなった物だ』
芸術作品のリストが現れた。その総数は1,412点。
作品の画像も次々現れる。
画像は画像に重なり、何が何だかわからないオブジェに変わる。
「こういうお宝と、それを持つ人を、日本へ連れて行く作戦。
それがプレシャスウォーリアー・プロジェクトなの」
口を挟んだのは、この手の造詣が一番深そうなドラゴンメイドだ。
だがその声は弱弱しく、ためらいがちだった。
「ええっ。そんなに芸術に価値がない世界なの? 」
ワイバーンの、恐怖と怒りが滲んだ声。
「そうよ。金属は解かされ、石像は砕かれて砂利に。絵や木製品は薪に――」
ドラゴンメイドの説明は、力強くさえぎられた。
「この世界に芸術を持つ権利がないなんてことは、ない! 」
力強くそう宣言したのは、カーリタースだ。
その拳が、強い意思によってわなわなとふるえる。
その様子に、ヒーローも、士官候補生たちも、ただならぬものを感じた。
「それは分かってるよ。カーリ君」
ドラゴンメイドは言った。
「政情が安定すれば、あのお宝はチェ連に返すよ。
でも、他にできることはないじゃない。
私たちはこの星で使えるあらゆる方法で、召喚者達に話しかけたんだよ。
これまでに行った作戦。全部報告した。
でも、返事はない。
だったら、一番考えが近い人に助けを求めるしかないじゃない」
彼女にしては珍しい、あきらめた弱弱しい声だった。
「一番考えが近い人。
それは誰だ? 」
シエロには、まるで覚えがなかった。
そんな彼を、ドラゴンメイドはまじまじと見つめてくる。
ゴーグルの奥から、気の毒そうな、憐れむような視線が見えるようだ。
「あなたのご先祖様が聴いたら泣くでしょうね。
マトリクス王国。その領土と文化を受け継いだマトリクス国を懐かしむ人々の事よ」
それが今、スーパーディスパイズの真横を通っている。
作業で飛び散り、落ちるのは火花か、それに似た謎のエネルギーなのか。
上にはフーリヤが滞空し、バリアを張った翼がそれを受け止めている。
竜崎 舞が、空飛ぶ巨人となって並んだ。
量子現象を操る力で、それを打ち消す。
「シエロ・マトリックスって人、知ってる?
マトリクス王国の最後の王子さま。
王国は民主国家に変わったから、王様にはならなかったけど、素晴らしい絵描きになってる。
ワインの会社でも成功をおさめ、大きな美術館も作ったんですって。
そして、50年前に亡くなった。
かなりの高齢だったけど、会社員を逃がそうと声をかけ続けて、途中に心臓発作で……」
心から、偉人の死を悼んでいるようだった。
「あなたの、曾おじいさんよ」
突然、シエロの心にとてつもないさみしさが襲った。
あまりに突然のことで、なぜそんな衝撃を受けたのか、自分でもわからないほどに。
だが、すぐ思い当った。
自分の曽祖父の遺訓は、今も生き続け、あの車列を走らせている。
異星からきた魔術学園生徒会もいっしょだ。
(あれだけの人数と能力があれば、いったいどれだけのことができただろう……)
それが、自分にはない。
今まで知ろうともせず、侮って来た過去の遺産が、そのままさみしさとなってのしかかる。
『車列の編成を説明しよう』
車列の先頭では、瓦礫が巻き上がっていた。ダッワーマとクライスだ。
そのすぐ後ろで、黄色いアーチのようなものが、道路を覆っているのが見えた。
『体育祭実行委員会会長、川田 明美』
顔の画像が示される。
日本人なら市松人形を思わせるショートボブの黒髪。
ぽっちゃりした女の子。
『日本人。両親はサラリーマン。きわめて平和な家庭で育った。
能力は窒素に干渉し、イメージどうりの形に変えて、操る。
今は鋼鉄より硬いアーチに変えて、車列を守っているな』
だが、そのアーチも無限ではない。
先頭はダッワーマとクライスについて行っているが、後ろは進んだ分消えていく。
その間は、せいぜい100メートル程度だ。
『その後ろを守るのが、未来文化研究部部長、ペク ミンファ(白 明花)』
家々の影から、かろうじてその姿が見えた。
彼女を運ぶのは大きなタイヤの8輪駆動車。全地形車両ともいう、大型トラックだ。
その荷台に、いかにも鉄板と鉄棒を合わせただけのような客室が乗っている。
平らな屋根には、低い手すりがあるが、走っている時に使う物ではないだろう。
ミンファがいたのは、その屋根の上だ。
黒髪をポニーテールにした丸顔の少女が、目をつぶり、一心に念じながら立っている。
黒い雨がっぱのフードが風でめくれている。それでも気にしている様子はない。
『大韓民国という国からの留学生だ。
能力は、真空崩壊。
エネルギーを使う。その過程で消費する。という行為を、どこまでも引き延ばせる。
今は、彼女のまわりにバリアとして貼っている。
それと、車から振り落とされないように。
突破するためには無限の力が必要になる』
ミンファは、1本の剣に体を預けていた。
黄金に輝く柄と鍔。
つばは左右に大きく張り出している。
そこから先は、確かに鉄の色に輝いている。
だが、そこに刃は無い。切っ先も丸く、ミンファはそれを杖のように使っている。
『あれが、メイメイから受け継いだ聖剣だ。
前はちゃんとした剣だったが、受け継いだのちに最適化した。
あれは、十字架という物をイメージしている。
キリスト教という、地球古来からの宗教のシンボルだ。
彼女はその熱心な信者だ』
もう一人、事前に撮った画像で紹介された。
他の女性と違い、顔のまわりを長い布で巻いている。
その中の顔は、おとなしそうだ。
『顔を包むのは包帯ではない。ブルカという物だ。
2年A組学級委員長、サラミ・マフマルバフ。
アフガニスタンからの留学生。
悪い奴らに閉じ込められ、無理やり働かされていたため、今年で21歳。
能力は身体能力が異常に高い。
車の事故などに対処するため、同行している』
シエロ達は、先頭やバリア係に比べて、地味そうな能力者だと思った。
そこに、以前撮影した動画が映し出された。
どこかの空き地のようだ。
メイメイがそばで説明している。
動画の中で、サラミは片手に一つづつ、鉄の板を持っていた。
板の後ろに取っ手があるらしい。
盾だ。その板は、とても分厚かった。
と思ったら、盾が下にスライドし、たちまち全身を覆うほどになった。
それでも厚さはある。ライフル弾すらストップさせるに違いない。
さらに盾の下から、3本の足のようなものが飛びだした。
サラミが手をはなすと、盾はその場に立ちあがった。
突き倒してみても、足は自動で姿勢を保つ。
盾は持ち上げられ、今度はやり投げの様に放り投げられた。
とんだ先は、廃車らしい。
あてられた盾は、その足を廃車にしがみ付かせる。
盾の裏から伸びるのは、鎖。サラミの右手にしっかり握られている。
一方の左腕は、盾を激しく地面に突き刺し、体を固定させた。
鎖がひかれる。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第25話 白旗騎士団 作家名:リューガ