小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト・ドラゴンメイド 第25話 白旗騎士団

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

『偉人の像。絵画。レコード盤。映画のテープ。それらの再生機器。
 どれも、50年前から作られなくなった物だ』
 芸術作品のリストが現れた。その総数は1,412点。
 作品の画像も次々現れる。
 画像は画像に重なり、何が何だかわからないオブジェに変わる。

「こういうお宝と、それを持つ人を、日本へ連れて行く作戦。
 それがプレシャスウォーリアー・プロジェクトなの」
 口を挟んだのは、この手の造詣が一番深そうなドラゴンメイドだ。
 だがその声は弱弱しく、ためらいがちだった。
「ええっ。そんなに芸術に価値がない世界なの? 」
 ワイバーンの、恐怖と怒りが滲んだ声。
「そうよ。金属は解かされ、石像は砕かれて砂利に。絵や木製品は薪に――」

 ドラゴンメイドの説明は、力強くさえぎられた。
「この世界に芸術を持つ権利がないなんてことは、ない! 」
 力強くそう宣言したのは、カーリタースだ。
 その拳が、強い意思によってわなわなとふるえる。
その様子に、ヒーローも、士官候補生たちも、ただならぬものを感じた。

「それは分かってるよ。カーリ君」
 ドラゴンメイドは言った。
「政情が安定すれば、あのお宝はチェ連に返すよ。
 でも、他にできることはないじゃない。
 私たちはこの星で使えるあらゆる方法で、召喚者達に話しかけたんだよ。
 これまでに行った作戦。全部報告した。
 でも、返事はない。
 だったら、一番考えが近い人に助けを求めるしかないじゃない」
 彼女にしては珍しい、あきらめた弱弱しい声だった。

「一番考えが近い人。
 それは誰だ? 」
 シエロには、まるで覚えがなかった。
 そんな彼を、ドラゴンメイドはまじまじと見つめてくる。
 ゴーグルの奥から、気の毒そうな、憐れむような視線が見えるようだ。
「あなたのご先祖様が聴いたら泣くでしょうね。
 マトリクス王国。その領土と文化を受け継いだマトリクス国を懐かしむ人々の事よ」

 それが今、スーパーディスパイズの真横を通っている。
 作業で飛び散り、落ちるのは火花か、それに似た謎のエネルギーなのか。
 上にはフーリヤが滞空し、バリアを張った翼がそれを受け止めている。
 竜崎 舞が、空飛ぶ巨人となって並んだ。
 量子現象を操る力で、それを打ち消す。

「シエロ・マトリックスって人、知ってる?
 マトリクス王国の最後の王子さま。
 王国は民主国家に変わったから、王様にはならなかったけど、素晴らしい絵描きになってる。
 ワインの会社でも成功をおさめ、大きな美術館も作ったんですって。
 そして、50年前に亡くなった。
 かなりの高齢だったけど、会社員を逃がそうと声をかけ続けて、途中に心臓発作で……」
 心から、偉人の死を悼んでいるようだった。
「あなたの、曾おじいさんよ」

 突然、シエロの心にとてつもないさみしさが襲った。
 あまりに突然のことで、なぜそんな衝撃を受けたのか、自分でもわからないほどに。
 だが、すぐ思い当った。
 自分の曽祖父の遺訓は、今も生き続け、あの車列を走らせている。
 異星からきた魔術学園生徒会もいっしょだ。
(あれだけの人数と能力があれば、いったいどれだけのことができただろう……)
 それが、自分にはない。
 今まで知ろうともせず、侮って来た過去の遺産が、そのままさみしさとなってのしかかる。

『車列の編成を説明しよう』
 車列の先頭では、瓦礫が巻き上がっていた。ダッワーマとクライスだ。
 そのすぐ後ろで、黄色いアーチのようなものが、道路を覆っているのが見えた。
『体育祭実行委員会会長、川田 明美』
 顔の画像が示される。
 日本人なら市松人形を思わせるショートボブの黒髪。
 ぽっちゃりした女の子。
『日本人。両親はサラリーマン。きわめて平和な家庭で育った。
 能力は窒素に干渉し、イメージどうりの形に変えて、操る。
 今は鋼鉄より硬いアーチに変えて、車列を守っているな』
 だが、そのアーチも無限ではない。
 先頭はダッワーマとクライスについて行っているが、後ろは進んだ分消えていく。
 その間は、せいぜい100メートル程度だ。

『その後ろを守るのが、未来文化研究部部長、ペク ミンファ(白 明花)』
 家々の影から、かろうじてその姿が見えた。
 彼女を運ぶのは大きなタイヤの8輪駆動車。全地形車両ともいう、大型トラックだ。
 その荷台に、いかにも鉄板と鉄棒を合わせただけのような客室が乗っている。
 平らな屋根には、低い手すりがあるが、走っている時に使う物ではないだろう。
 ミンファがいたのは、その屋根の上だ。
 黒髪をポニーテールにした丸顔の少女が、目をつぶり、一心に念じながら立っている。
 黒い雨がっぱのフードが風でめくれている。それでも気にしている様子はない。
『大韓民国という国からの留学生だ。
 能力は、真空崩壊。
 エネルギーを使う。その過程で消費する。という行為を、どこまでも引き延ばせる。
 今は、彼女のまわりにバリアとして貼っている。
 それと、車から振り落とされないように。
 突破するためには無限の力が必要になる』
 ミンファは、1本の剣に体を預けていた。
 黄金に輝く柄と鍔。
 つばは左右に大きく張り出している。
 そこから先は、確かに鉄の色に輝いている。
 だが、そこに刃は無い。切っ先も丸く、ミンファはそれを杖のように使っている。
『あれが、メイメイから受け継いだ聖剣だ。
 前はちゃんとした剣だったが、受け継いだのちに最適化した。
 あれは、十字架という物をイメージしている。
 キリスト教という、地球古来からの宗教のシンボルだ。
 彼女はその熱心な信者だ』

 もう一人、事前に撮った画像で紹介された。
 他の女性と違い、顔のまわりを長い布で巻いている。
 その中の顔は、おとなしそうだ。
『顔を包むのは包帯ではない。ブルカという物だ。
 2年A組学級委員長、サラミ・マフマルバフ。
 アフガニスタンからの留学生。
 悪い奴らに閉じ込められ、無理やり働かされていたため、今年で21歳。
 能力は身体能力が異常に高い。
 車の事故などに対処するため、同行している』

 シエロ達は、先頭やバリア係に比べて、地味そうな能力者だと思った。
 そこに、以前撮影した動画が映し出された。
 どこかの空き地のようだ。
 メイメイがそばで説明している。

 動画の中で、サラミは片手に一つづつ、鉄の板を持っていた。
 板の後ろに取っ手があるらしい。
 盾だ。その板は、とても分厚かった。
 と思ったら、盾が下にスライドし、たちまち全身を覆うほどになった。
 それでも厚さはある。ライフル弾すらストップさせるに違いない。

 さらに盾の下から、3本の足のようなものが飛びだした。
 サラミが手をはなすと、盾はその場に立ちあがった。
 突き倒してみても、足は自動で姿勢を保つ。
 盾は持ち上げられ、今度はやり投げの様に放り投げられた。
 とんだ先は、廃車らしい。
 あてられた盾は、その足を廃車にしがみ付かせる。
 盾の裏から伸びるのは、鎖。サラミの右手にしっかり握られている。
 一方の左腕は、盾を激しく地面に突き刺し、体を固定させた。
 鎖がひかれる。