夏空少年
喪失少年
俺達の夏が、終わった。
西日に照らされた肌に滲んだ汗を泥だらけの手でぬぐう。日の沈みかけたグラウンドに、俺以外に人影はなかった。
今日の練習はお別れ会と称した紅白試合だった。
俺は今日という日の最後まで投げていたかったから、一番遅くまでグラウンドに残っていた。
黒く汚れた手のひらから放たれたボールが緑のネットに引っかかる。ネットの傍に転がったボールは拾わない。ボールなら山程あるんだ。
目を瞑ると、昨日の試合のことを鮮明に思い出す。
キン、と音を立てて飛んでいく白球---ショックを受けた航さんの顔と(おそらく俺も同じような顔をしていたに違いない)、相手チームの歓声。県大会まで、あと一歩届かなかった。
ああすれば良かった、こうすれば良かったなんて、今でもそんなことを考えるけど。
「なんで佑夜がそんな顔してんだよ。また、来年、あるから、頑張ってくれよな」
苦笑しながらそう言った。
もう一球、放る。
過ぎたことだ。また、次に生かせばいい。
もう一球。
だけど。
次、は無いのだ。三年生と---航さんと、過ごす最初で最後の夏は、終わったのだ。
それが、俺の中で鐘を打ち鳴らすようにどうしようもない事実として響いていく。
カゴからボールを拾い上げ、前を見つめると、俺の真ん前、いつもと同じ位置にミットがある。何百回、何千回とそこに投げてきた。昨日も、そして今も。
だけど俺の放ったボールは空しくミットを通り抜け、ポスン、とネットを鳴らして仲間と同じように転がった。
航さんはもういない。いつでも、どんなときでも俺を受け止めてくれた頼もしいミットはもう無いのだ。
そう思うと、俺という小さな世界が崩れ穴が開いて下に落ちていくような錯覚さえした。
そしてそんな俺を、どこからか流れてくる吹奏楽の音だけがマウンドに繋ぎ止めているようだった。
ふう、と息をついて、空を見上げる。そこには、残酷なほど綺麗な空が広がっていた。蒼から黄、橙、そして朱と一分の隙もない完璧なグラデーションさえ疎ましく思った。
一つの雫が、俺の顔をつたう。
こんなに涼しくなったのに、まだ俺は汗をかいていたのか。
---汗?
ああ、汗だ。
そうだ、これは汗だ。
これは涙なんかじゃない。