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ふしじろ もひと
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『遥かなる海辺より』第3章:エピローグ

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 曲が終わったとき、沈黙からは押さえつけるような重苦しさが消えていた。誰かがほうっとため息をついた。
 するとホワイトクリフ卿がセシリアの前に進み出て、車椅子の少女に深々と頭を下げ、口篭りながら詫びようとした。
「もしや私は短慮ゆえにあなたを悲しませ、めでたき祝いの席を台無しにしたのでは……」
「決してそんなことは! この曲は一生の宝です」
 セシリアはあわてて遮った。
「どれほど感謝しても足りないくらいです。そんなふうに頭などお下げにならないで」
「なんだか僕、夢でも見てるみたいだ」
 薬師の少年が感じ入った様子でいった。
「同じ曲を同じ人が演奏してるのに、それでもこんなに違うなんて……」
「演奏ってそういうものなのよ、ロビン。心を込めれば込めるほど、その時の気持ちや場の雰囲気が反映するの」
 セシリアの言葉に、メアリも無言でうなづいた。
「つまり、この違いは曲の由縁を知る前と後との気持ちの違いを映していることになるわけか……」
「ということは、曲の由来を知らなければ、最初の演奏のようになるだろうってことでありますか?」
 感慨深げなアーサーに、アンソニーが問いかけた。
「おっしゃるとおりだと思います。それに今の演奏は由来だけではなく、その後のことまで知っていたからああいうものになったのだとも」
 セシリアは答えたあと、つぶやくように言い添えた。
「あるいは私は、この曲の意味あいを変えてしまっていたのかもしれません。この場だからこそ通用する、許される演奏だったといえるのかも」
「だがこの場では、少なくとも俺たちには、今の演奏はかけがえのないものだった。そうは思わないか?」
「同感だ。まるで癒しの魔法にかかったみたいだった」
 エリックの言葉に大きくうなづくリチャードを、メアリが横目でじろりと見た。
「魔法はこりごりだとかいっていたのは誰でしたかしら?」
「狼の尻尾といっしょにできるか。こんな魔法なら大歓迎だ」

 そのやりとりに一同の顔にも笑みが戻り、雰囲気が目に見えてほぐれた。そのときノースグリーン卿が思い出したように青年騎士に問いかけた。
「貴君の曽祖父どのはこの曲を世に出されなかったのだろうか。これほどの曲が世に出ていれば、今の我々が知らずにいることはありえないとしか思えぬが」
「経緯は今わからぬにせよ、おそらく感じるところがあったものと。若かりしといえど我が先祖。見せ物師のまねなどできなかったのでしょう」
 誇らしげに胸を張るホワイトクリフ卿に、ノースグリーン卿は思い惑う風情でいった。
「だが、これほどのものを娘が秘蔵するのは正しいのだろうか。ルヴァーンも世に出すだけの価値はあるといっていたことだし。セシリア、どう思う?」
「この曲はとても尊いもので、私一人が持っていていいものではないと思います。悲しいことですが、人魚もこの世にいない今、あえて隠しておく必要はありません。せめて彼女が遺したこの曲だけでも、なんとか伝えられてほしいと願います」
 迷いなく答えた車椅子の少女に、メアリが疑問を呈した。
「竪琴はともかく笛のパートは難しすぎませんこと? これでは吹ける人などめったに出てきませんわよ」
 するとエリックが頭をかきながらいった。
「さっきの素人考えだが、いっそ笛のパートを二人に書き直したらどうだろう? もとの楽譜はお嬢さんがもらうということで。それで丸く収まらないかな?」
 エリックの案は一同に支持された。最後にノースグリーン卿がいった。
「この曲はかのヴァルトハールとも因縁あるものゆえ、ご領主に報告がてらご相談してみよう。なにかいい形で計らって下さるやもしれぬ。御前演奏も求められようから二人で時々さらっておいてくれ」