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怒りんぼのカオリちゃん

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「……あ、血ィだ」
 不意にシブヤがつぶやいた。どうやら鼻血を出したらしい。自分の手についた真っ赤な血を、ぼうぜんとながめてる。子どもって自分の血に弱い。どんなに腕白なガキ大将でも、自分の流した血を見ると、とたんに意気地がなくなる。あんのじょうシブヤの肩が、ひっくひっくと上下に震えだした。
「わーん」
 四年生だなんて威張っていても、しょせんは子ども。鼻血ひとつで、おいおい泣きだしちゃう。ほんとバカみたい。カオリは、ぽかんと口をあけてるユウの手を引っぱった。
「はやく行こう」
「……うん」
 アーケードのある商店街を全速力で走り抜けると、やがて駅へとつづく石畳の遊歩道にたどり着く。ここには噴水やベンチもあるし、アイスクリームやホットドッグを売る屋台だってある。そこで二人、立ち止まってヒザに手をつきながら、ぜえぜえ息をする。やがて落ち着いてくると、どちらからともなく顔を見合わせて笑い出した。
「あははは、あんたもなかなかやるわね」
「ひひひ、シブヤのやつ鼻血出して泣いてやんの」
「今度、弱いものイジメしてるの見かけたら、鼻血くんって呼んでからかっちゃおうか」
「それいいね、おれ、こっそりみんなに言いふらしてやるよ」
 チビで弱虫でも男の子は、やっぱり男の子。いざというときには、か弱い女子の身を敵から守ってくれる。
「……あのさ」
 ひとしきり笑い終えると、カオリはもじもじしながら言った。
「さっきのクッキーなんだけどさ……」
「うん」
「あれ、やっぱりもらってあげる。あたし、クッキーって大好きだし」
 やばい、耳たぶ真っ赤。でもカオリはちゃんと言えました。さて、ユウのやつの反応は……?
「ああ、あれか。悪りィ、あのクッキーはもうないんだ」
「え?」
 ユウは、マリナーズの帽子をぬいで、もうしわけなさそうに頭をぽりぽりかいた。
「さっき学校のそばで、おまえのお姉さんに会ったんだ。それでおれ、あのクッキーおまえに渡してくれるよう頼もうと思ったんだけど……」
「コユミお姉ちゃんに?」
「うん、でもおれ……おまえのお姉さんと初めて話をしてびっくりしたよ。だって近くで見るとすごい美人なんだもん。だからつい、よかったらこれ食べてくださいって言っちゃった。あはは、おれ、ちょっとドキドキしたんだ、このさい年上のカノジョなんてのもアリかなーなんて思ったりしてさ……って、あれ? おまえ、なにひとりでぶつぶつ言ってんの?」
 カオリは怒ってない、カオリは怒ってない、カオリは心の広い女の子、こんなつまんないことで怒るもんですか、あーバカバカしい……。