やさしいかいぶつ
夢から醒めたら
「ユミちゃん!」
誰かが自分の名を呼んだ。ずいぶん切羽詰った声だった。
「ユミ!だいじょうぶ!?」
うなされる女の子を、決して顔立ちが似ていない女性が必死に揺すり起こした。
ワンテンポ遅れて、女の子は目を覚ます。
「大丈夫!?」
そこは花畑でも森でもない、ありふれた子ども部屋。
女の子はまだ夢見心地だった。しかし、しっかりとその女性の目を見て、言ったのだ。
「お母さん」
女性は最初、自分が呼ばれたことに気づかなかったようだった。そして、じわじわと涙があふれだした。抱きしめ、女の子の名前を呼び続けた。
女の子も涙が止まらなかった。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
ただ女の子はそれだけ繰り返した。それしか言葉を知らないように。
すると、肩に激痛がはしる。
「ユミちゃん、どうしたの!?」
普通に寝ていただけではありえない傷が、肩に出来ていた。まるで、犬か何かに噛み付かれたかのように。さっき怪我を負ったように血が流れて、パジャマを台無しにしていた。
しかし、女の子はそれを見て痛そうな顔も驚いた反応もせず、ただ少し潤んだ声で呟いた。
「愛してくれて、ありがとう」