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レイドリフト・ドラゴンメイド 第24話 受難者たち

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 そんな相反する空気が2つの車内で充満する。
『あきらめろ。愛には勝てない。
 我々は未来を考えるだけだ! 』
 オルバイファスはそう言ったが、なんだかヤケになっているようにも思えた。

『……それでは、質問があれば受け付けよう。
 我なら、有機生命体のメンバーではできない説明もできる』
 画面の向こうから、がんがんという金属の衝突音が聞こえた。手でも叩いたのだろう。
『たとえば……ホイ! 』
 ネットの向こうからの操作。
『これが現在の山岳要塞からフセン市にかけての様子だ』
 ワイバーンが見ていた地図。それが更新された。
 チェ連人には意味が分からなかったマークやアイコンは消え、言葉で書き換えられた。
『地球人側の戦力と言うが、それは日本の自衛隊とルルディの騎士団、PP社だけではない。
 アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシア、中華人民共和国、中華民国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンの25か国が参加している』
 オルバイファスが国名を言うたびに、その字が太く表示された。
『それにEUという28カ国が加盟する連合だ。
 全体で3000人規模が派遣されている。
 オリンピックという物を知っているか?
 地球では、四年に一度、世界中の国が詰まってスポーツの国際大会をするのだ。
 彼らは、次の大会の警備のために、合同演習で日本に集まっていた』

「わたし、オリンピックの主題歌のオーディション、受けたかったなぁ」
 突然の、達美のヤジ。
「召喚されたせいで、受けられなくなったんだよなぁ」
 いや、もうマスクとゴーグルをつけた、ドラゴンメイドだ。
「だから、これは私と義姉さんからの贈り物。必ず見なさい。ホイ」
 指ではじくようなしぐさ。
 そして飛んできたのは、赤い新たなウインドウだった。
「義姉さんて、誰? 」
 武志がきいた。
「ボルケーナの事よ。お兄ちゃんと結婚したの」
「え!!!! 」
 赤いウインドウは地図の隣にはりつく。
『そんな顔で見るな。逮捕状じゃあるまいし』
 オルバイファスに言われ、チェ連人達は、そのウインドウへの漠然とした不安が、しっかり認識できたことに気付いた。
(それだ! )

『話を元に戻す。さっき言った部隊のほとんどは、フセン市の異星人居住区に集中している』
 ドローンからの空撮映像が映しだされた。
 ドディたちのいた浄水場。それが取水する川の、下流。
 川の大きな曲がりに、直径100メートルはある中洲ができていた。
 そこは異星人居住区だ。
『あの中州に、約3500人も収容されていた』
 大きな橋がかかっていて、その上で大量のトラックや兵員輸送車が往復している。
『異星人を救出しているな』
『そんなことをされたら、凶悪な宇宙人が出てきてしまう! 』
 サフラが、勢い良く言い放った。
 そしてオルバイファスのアイコンをにらみつける。

『落ち着け。彼らは母星へ帰す。
 そうすれば各々の星で彼らを引き取り、もうスイッチアへ悪さはさせないという条約がある。
 これは強制力を持つ物で、地球にはそれなりの後ろ盾もある。
 それでも彼らを監禁するというのか? 』
 彼の声は、あくまで穏やかだ。

『平和は、一部の人間だけの物ではない。というのですか』
 オルバの説明を聞いてサフラは、納得したのだろうか? それは本人にしかわからない。
 ドローンの空撮映像に、ルルディの黒い飛竜が横切った。
 それが得体のしれぬ地球の後ろ盾・・・・・・宇宙の暴力に見えたかもしれない。
『そうだ。50年間で疲弊しているのはチェ連だけではない。
 他の星も同じだ。
 我の経験から見ても、このあたりで手打ちにするべきだと思うぞ』
 サフラの表情から、一時の激情がすっかり消えていた。
 それどころか、顔が青ざめていく。
 やがて、かわいそうなほど消え入りそうな声で。
『どうか、非礼をお許しください』

 居住区の周り、川の両岸にはチェ連による監視場がある。
 高い壁や監視塔がある、立派な基地だ。
 だが、その戦闘能力は消え去ったように見える。
 あちこちで火の手が上がり、それを消すためにおられた消火栓が、ランダムに水を吹き上げている。
『質問はないか? 』

 しばしの沈黙。

『では、戦場を移そう。異星人居住区から川を上ると、浄水場がある。
 我々は、チェ連が侵略された際の作戦計画を研究した。
 そして、敵の侵略が止めることができなくなった場合の、焦土作戦の事を知った。
 その一つが、この浄水場の自爆だ。
 我々はそうなったときのために、作戦計画を練った。
 それが、プレシャスウォーリヤー・プロジェクト。
 まず、ここの機能回復を図ることにした』
 次に映し出されたのは、浄水場へ急行したオルバイファス自身が撮影した映像だ。
 それを見てチェ連の若者たちは、智慧から与えられた記憶を改めて記憶する。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 地域防衛隊のバリアの蒼い輝きが、オルバをしっかりと照らしていた。
 浄水場へ駆けていた攻撃が、ピタリと止まった。
 恐怖ゆえに。

『浄水場に来た時、我は戦闘機形態をとっていた。
 全長30メートル。
 この形態で宇宙空間に飛びだせる。
 自力でポルタを開き、一瞬で惑星間移動も可能だ』

 そんな戦闘機から、飛び下りる二つの人影があった。
 男子と女子、2人の生徒が。
『見ていろ。2人が擬態を解くぞ』
 2人の背中から、次元が歪んでいく。
 彼らの姿は、背後のゆがみに飲み込まれていく。
 その代りに現れたのは、巨大な、オルバイファスより巨大な異形だった。50メートルはある。
『人間に似た体は、一般生活用ボディ。機械に過ぎない。
 本物の体はボディ内の四次元空間に入っている。
 ボディ内の存在概念をゆがませた、上下、左右、奥行きではなく、時間方向へ拡大した空間だ。
 普段はそこからバーチャルリアリティを通じて外に働きかけている』

 少女型ボディが飲み込まれた4次元空間から、濃い緑色の巨体が現れた。
 同時に、空気を連打するビビビビビ――という音がして、巨体が浮いた。
『野球部部長、カーマ。
 マンディター星人だ。
 以前は怪獣ハンターをやっていた』

 怪獣ハンターとは、異能力を使い巨体も維持する、特殊生物を狩るもの達だ。
 怪獣の体内には高濃度の異能物質が蓄積されたりするので、惑星間移動ができる種族には割とポピュラーな職業だ。

 カーマは、カマキリが二本足で立ち上がったような姿。
 全身が甲殻で覆われている。
 背中には、空気が歪んで見えていた。
 透明な羽が、激しく振動して浮力を生みだしている。
 手は人間のように5本指があるが、手首を支点に腕から巨大な鎌が飛びだした。
 その手が、屋上から銃撃する敵に向けられた。
 銃弾が来る。
 それでもかまわず、手の甲から白い塊を発射した。
 白い塊は、人々を避けて屋上にぶつかり、四方へ飛び散った。