あの日、雨に消えた背 探偵奇談10
「…おまえのそういう力も、前世の名残なのかもな」
別れ際、ぽつりと伊吹がそんなことを言う。
「じゃあまた学校でな」
「はい」
交差点で自転車にまたがり、別れた。
また会える。明日も。
明日目が覚めたら、何の前触れもなく、伊吹のことを忘れてすれ違うだけの存在になっている。そんなこと絶対にありえないのに。それでも不安になるのはたぶん、そういう別れを幾度も経験しているからなのだろう。魂が、覚えているのかもしれない。
「伊吹先輩!」
「なんだー?」
だから繰り返し名前を呼ばないと。
何度も顔を見ておかないと。
明日また、名前を呼べるように。呼んでもらえるように。
おぼえておいて、もらえるように。
.
作品名:あの日、雨に消えた背 探偵奇談10 作家名:ひなた眞白