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「メシ」はどこだ!

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第8話



 次の日曜日、泰造は優子を北千住の喫茶店に呼び出していた。
「色々と調べてみました。それで判ったことがありました。優子さん、どうして最初の時に私に嘘なんか言ったのですか、お姉さんの愛子さんは、貴方とは暫く連絡も取っていないと言っていましたよ」
 泰造は、静かにコーヒーカップを持ち一口コーヒーを口にいれた。ブラックの程よい苦味が喉を過ぎて行く。優子は泰造に真実を言われて下を向いていたが
「すいません。実は姉の代わりに私が姉の立場でお願いしたのです」
 一瞬泰造は優子の言っている意味が理解出来なかった。
「は? 何を仰ってるのですか? 分かりやすくお願いします」
 泰造の言葉に優子は我に返り
「あ、すいません。父が不審な行動をしている事は私は、夫から聞かされていました。怪しい食品ブローカーみたいな連中と最近付き合っていると」
「食品ブローカー?」
 泰造も聞いた事はあったが、実態は良く知らなかった。賞味期限が迫った品物を二束三文で買い叩いて、それをまた格安で格安スーパー等に横流しをする……そんな程度だった。
「そうなんです。義兄に店を任せてからは、古い顔なじみのお客さんが来た時は顔を出しますが、それ以外は殆ど店にはでません。それは『もう秀樹に任せたから』と言うものでした。私が注意すると今度は姉が『余計な事を言うな』と私に言いました。そんな事が続いて段々店に顔を出し難くなったのです。でも夫は業界の人なので、色々な噂を耳にします。ヨーロッパに一度行き、帰ってきて直ぐにまた行ったのはどう考えても怪しいんです。そんな中で夫が『最近どうも良くない食品ブローカーと付き合いがあるらしい」と教えてくれました。そこであんな作り話をしたのです。姉や義兄は事情をある程度は知っていると思いますが、むしろ良いことをしていると思っていると思います」
「良いこと?」
 泰造は残りのコーヒーを飲み干すと優子に尋ねた。
「はい、その食品ブローカーは東京都の市場で売れ残った品物を格安で購入して、貧しい国や難民に配っていると信じているからです」
 泰造は長らく市場に出入りしているが、そんな事は初めて聞いた。愛子ならいざしらず、同じく市場に通ってる秀樹なら判るはずだと思った。
「それで、貴方はどう思ってるのですか?」
 泰造もここで本気で優子の話を信じた訳ではない。信用できるのか未だ判断がつかなかった。
 優子はティーカップを口にすると小さく息を吐き
「これは夫が感じた事と私が少し調べてみた事を総合して述べますと、そのブローカーは食材の横流しをしているのでは無いかと思うのです。父はきっと貧しい難民向けに格安で購入して食材を配っている。と騙されているのでは無いかと思うのです」
 泰造は大胆な推理だと思った。東京都の市場の食材は大卸の半官半民の会社を通さねば売ることは出来ない。管理がしっかりなされていると思っていたが、賞味期限間近の食材が売られる事は確かにある。メーカー製の食品などは特に多い。
 それで全てだと思っていた。優子は更に
「賞味期限間近でも売れ残ってしまったのは大卸に戻るのだと聞きました。ならば、そんな品物の行く末はどうなるのでしょうか?」
 優子はもう一度紅茶を飲むと
「それに目を付けた連中がいるのでは無いでしょうか? 私はそう考えたのですが、それから先は調べようがありません。市場に顔が利く訳ではありませんし、市場の事自体にそう詳しくありません。そこで牛島さんの事を思い出したのです。多少の嘘でも真剣に頼めば聞いて貰えると思ったのです」
 食品の横流しが本当に行われているなら、それはそれで問題だ。確かに売れ残りがある日きれいに無くなってる事がある。仲買いに尋ねると『返したよ』と言う答えだった。だが、その先を考えた事は無かった。
「最初にそれを言ってくれれば、もっと早く動けたのに……」
「すいません。本当は父の安否も心配ですが、父が知らぬ間に犯罪に手を貸してしまってる事が心配なんです。姉や義兄は父の言う事を完全に信用しています。私がこの事を言ったら、怒ってしまったのです。だから、二人は真実は何も知らないと思うのです」
 確かに、あの二人ならオヤジさんの言う事を完全に信用してしまうと思った。それに、まさから「花村」のオヤジがそんな事をしているとは世間的にも知らない事だと……。
「判りました。その線でもう一度洗ってみます。もし、犯罪行為が判れば警察に告発しますよ。それでも良いのですか?」
 泰造は優子の覚悟を尋ねると
「はい、父は知らずにやっていたと思いますので、きっと軽い刑で済むと思います。それまでは仕方ないと思います。これ以上深みに嵌って欲しく無いのです」
 優子の覚悟も想いも判ったので、泰造は伝票を握って店を出た。暮れの街は妙にざわついていた。

 店に帰ると美菜がカレーを作っていた。
「今夜はカレーか?」
「うん。近所のディスカウントでルーが格安だったの。賞味期限が来週までなんだけど今日使うなら問題無いでしょう」
「格安って幾らだったんだ?」
「この大きいのが一つ五十円。安いでしょう。スーパーでも二百三十円はするよこれ」
 泰造は美菜が見せた◯&Bのカレールーの箱を手に取ってみた。確かに日付は来週一杯だった。それを見てこれも先程優子が言った事と繋がっているのかも知れないと思った。一度優子の夫に会って噂とやらを尋ねてみたいと思った。
「ねえ、今日のカレーは茄子も沢山入ってるし、アスパラを茹でたから、それも添えて食べるんだよ。お肉は牛肉。じゃがいもはメークインだからね。玉ねぎは淡路産だよ人参は千葉だけど」
「別に千葉産の人参でも良いじゃ無いか」
 泰造がそう突っ込むと美菜は笑って
「まあそうだけどさ」
 そう言いながら煮えて来た具合を確かめると鍋の火を止めて、ルーを割って入れた。
「火を止めて入れると綺麗に溶けるんだよ。知ってた?」
「当たり前だろう。俺は板前だぞ」
「でも餃子焼けないじゃない」
「う……」
 そうなのだ、泰造は殆どの料理をこなすが餃子だけは作るのは上手だが焼くのが下手なのだ。今まで一度もパリッと焼けた事が無いのだ。だから牛島家では餃子を焼くのは美菜の仕事と決まっている。
「七不思議だよね〜。そう言えば『花村』のオヤジさんも餃子焼け無いんだっけ?」
 そうなのだ。何故がそこが師弟で受け継がれてしまったのだ。泰造はカレーを食べたらもう一度優子に電話して、優子の夫に会う約束を取り付けようと考えていた。

作品名:「メシ」はどこだ! 作家名:まんぼう