あなたが残した愛の音。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あの時の先生の表情が、忘れられないんです」
「その花って、銅でできた、五百円玉ぐらいの大きさのヤツですか?」
「そうです」
「花に虫の載った」
「テントウムシ」
「それ、まだ家にあります。玄関の壁の鍵掛けに、取り付けてあるヤツです」
「本当ですか!」
「だから大切にしてたのね」
愛音は背もたれに寄りかかって、ため息混じりに言った。
「今も残ってるなんて感激だなぁ。先生に会いたくなってきた」
「・・・でも、母には、私が今日会いに来た事は、話してないんで」
「ではどうして、僕を訪ねて来られたんですか? 僕の話もあまり聞いておられなかったようなのに」
「・・・実は、別の話を聞いて来たんです」
「別の、と言うと?」
「木田さんと母は、その後、もっと仲良くなったんですか?」
「え? どういう意味ですか?」
「関係が、その、深くなったのかと」
・・・・・・・・・・
「私のアパートに寄ってく?」
「部屋に行くんですか?」
「うん。お礼がしたいの」
「誕生日なのに一人だから?」
「もう! 痛いとこ衝かれたぁ」
博之の自宅より、ひとみ先生のアパートの方が手前にバス停があった。博之は喜んでアパートに行きたいと答えた。
作品名:あなたが残した愛の音。 作家名:亨利(ヘンリー)