ひこうき雲
送別会で無念そうに柿崎にそう言い残して新たな人生の旅路を歩み始めた彼らが充実した人生を送っていることは毎年届く年賀状の笑顔を見れば分かる。
「・・・というわけだ。急で済まんがよろしく頼む。」
「はっ?」
憎悪の念から湧き上がってきた思い出に、話の核心を聞きそびれた柿崎が反射的に聞き返す。
「だから、営業に行ってくれって言ったんだ。秋葉原だよ。ア、キ、バ。営業技術課だ。」
「え、営業?なんで私が」
「何を聞いていたんだ。柿崎。何度も言わせるな。開発の経験を活かして、営業の奴らのレベルアップをして欲しい。もう開発は充分だろう。」
頭の中で一瞬火花が散る。
-開発に充分とかはない。開発が現状に満足したら会社は潰れる。やっぱりコイツは分かっていない。
我慢だ。せめて子供達が学校を出るまでは。。。-
長男はやっと大学4年になり、長女は大学2年だ。幼いころからパイロットになるのが夢だった長男は、本気で海上自衛隊のパイロットを受験するつもりだ。狭き門だ。どう考えても就職浪人決定だろう。
「単身ですよね。。。」
辛うじて出た答えにしては間が抜けてる。聞くまでもないことだ。
「当たり前だ。なんだ母ちゃんが恋しいのか?まだ子離れしていないとか?」
俺を男と思っていない妻など、恋しくも何ともないし、親が子離れする前に大学生になった子供達は既に独り暮らしをしている。妻も独りの生活を満喫できるだろう。
-それでいい。俺の役目は金を家に入れることだ。-
「いえ、問題ありません。」
「そうか。以上だ。」
何事もなかったかのように立ち上がった部長は柿崎には目も向けずにデスクに戻っていった。
所詮儲けにならない派遣の人間なんか、単純な足し算と引き算だ。それ以上のことは考えていない。。。
あの時、俺も転職していたらな。。。
違った人生を送っていたかもしれない。