尖閣~防人の末裔たち
打合せが始まってから5分程度で「うみばと」の整備をしていた2名も集まると、すぐに機体状態の確認の打合せに切り替わった。様々な項目について確認を行い、最終的には機体は万全とのことで一致し、機長の浜田がリストにサインをする。皆安堵の表情で海図とチャートを大きくテーブルの上に広げて時系列的におおよその行動と位置を打合せに入った。対処目標は「河田艦隊」なる漁船団と中国海警、中国の漁船団の3つ、対する巡視船隊は3隻のみで手薄な状態なため、「うみばと」と巡視船隊は別行動をとることとなったため、打合せは慎重に進められた。中国海警は、自国の漁船団の行動を棚に上げ、河田艦隊の魚釣島進入を阻止してくる。そして中国の漁船団は間違いなく魚釣島に上陸ないし、領海内での漁をするはずだ。という意見で一致した。その結果から絶対に進入を阻止しなければならない中国漁船については、巡視船隊が対応し、進入されても自国領であり問題のない河田艦隊については、「うみばと」が監視活動を行うこととなった。最後に、ケースバイケースの事態に対する基本的な対応指針を打合せて1時間近くを費やした会議が終了となった。出発は30分後だった。昇護は、緊張だけではない複雑な気持ちを抱えていた。いや、父への申し訳ないという気持ち、美由紀とのこと、自分の仕事・・・守るべきもの・・・様々な葛藤のために緊張に回すだけの気持ちの余裕がないのかもしれない。とにかく海保叩きで有名なあの河田という人に無謀な行動を起こさせず、断念させることに集中しよう。この海域では、何が国際問題の引き金になるか分からない。いや、国際問題に留まらず紛争や戦争になることだってありうる。そうだ。そうなんだ。そうならないために、俺達は体を張って非日常の事態が発生する芽を摘み取っているんだ。芽が育たないうちに。。。取り返しがつかなくなる前に。。。
昇護は、自問自答をしていく中で、ひとつの答えに行き着いた。そんな事だったのか、あまりにも新鮮で、あまりにも単純。さらに自ら気付いたことへの驚きが混じり、昇護は身がブルッと震えるのを感じた。これが武者震いというものだろうか?昇護は自分の心に自信と闘志が湧くのを実感すると、出発の準備に取り掛かった。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹