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尖閣~防人の末裔たち

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と、男に言うと、艦橋へ向かい、足元に気を付けながら歩き出した。
 艦橋の脇に剥き出しになっているハシゴのような急で狭い階段を上がって行くと、艦橋(正確には軍艦ではないから船橋だが、、、)の更に上から、古川を呼ぶ河田の声がした。古川が返事をして上を見ると船橋の上の屋上のように屋根のないデッキから河田が古川を見下して
「こっちです。上がってきて貰えますか?狭いから気を付けて」
と古川に声を掛けた。
「ここがいちばん眺めの良い場所です。ここで撮影してみてはいかがですか?」
今回は、終戦記念日ということもあり、何が起こるか分からないという理由で、古川は、撮影場所を制限されていた。河田の声は丁寧だったが、実質「ここで撮れ」という命令と同じだった。
古川は頷くと、
「ありがとうございます。」
と声を張り上げ、リュック一度降ろすとカメラバックをたすき掛けに担ぎなおして、再びリュックを背負った。軽く溜息をついてデッキに登る細いハシゴに手を掛ける。高い場所が苦手な古川は、下を見ないように細心の注意を払って登った。
登り切って周囲を見渡すと、確かに景色は広くマグロ延縄漁船団、河田のいうところの艦隊が一望できた。
「確かに、いい場所ですね。ありがとうございます。」
古川は、改めて河田に礼を言うとリュックとカメラバッグを床に置いた。カメラを取り出すと、ファインダーを覗いて設定を確認した。案の定夏の強い日差しとそれを負けじと照り返す海面の反射光とで、露出がかなり高かった。
-今日は飛行機やヘリが出てくるかもしれない、望遠も必要だろうし、船の揺れも考えると、ブレを抑えるためにシャッター速度は速い方がいいな。-
 古川はそう判断すると、シャッター速度を1/8000秒にセットした。ヘリのローターも飛行機のプロペラも全てが止まって見える写真になってしまうが失敗は避けたい。その都度調節すればいいだろう。取り出した2台の一眼レフデジタルカメラは、一方に800mmの望遠レンズを取り付け、もう一方には35mm~105mmのズーム式レンズを取り付けていた。古川は、それぞれのカメラの設定と動作確認を終えると、35mm~105mmのズーム式レンズのカメラを最大に広角にして視野を広くした写真を1枚撮った。白い漁船が輝く群青の海に映える。さらに、ちょっといいですか?と河田に言ってカメラを向けた。視野を広く取った海をバックに右端から1/3を自然に構えた河田の上半身が写る。すらっとした体型に豊かな白髪頭に紺色のキャップがアクセントになる。自然な笑みには、優しくもこれまで積み上げてきた酸いも甘いも様々な出来事に揉まれ、そして切り抜けて来たことを年輪のように感じさせる老練な紳士の姿だった。
「ありがとうございます。」
カメラを降ろすと、古川は河田に礼を言うとそのまま質問に移った。
「ところで、今回は、なぜ8月15日、つまり終戦記念日に行動を起こしたのですか?」
河田は、笑みを消すと、真っ直ぐに古川の目を見つめてゆっくりと語り始めた。
「確かにそこが重要なのです。あの太平洋戦争は総力戦でした。軍人も民間人も共になって闘い、そして共に多くの犠牲者を出しました。なぜでしょうか?領土がなくなる即ち国がなくなるということは、生活が出来なくなるということ。つまり国がなくなることは日本民族が滅びるということを意味していました。当時は欧米白色人種にそのほとんどを植民地とされたアジアを目の当たりにしてきた日本人にとって、それは他人事ではなかったわけです。日本人は黄色人種として、格下に見られていたのですから尚更です。アメリカを始め欧米各国との国力の差を知りながら日本が自ら太平洋戦争に突入してしまったのは何故か?アメリカ、イギリス、中国、オランダからなるいわゆるABCD包囲陣によって圧力を掛けられ、領土を縮小することを要求され、資源の禁輸措置までとられ、このままでは日本人は生活できないという一線まで追いつめられたからです。ここで領土の縮小を認めてしまったらどうなるか?日本は、未来永劫、欧米の言いなり、彼らは再び同じことを要求してくるに違いないという危機感を共有していた。
太平洋戦争開戦前の昭和16年(1941年)9月6日の天皇陛下を前にした御前会議において永野修身海軍軍司令部総長永野修身海軍軍司令部総長が言った、
「戦わざれば亡国必至、戦うもまた亡国を免れぬとすれば、戦わずして亡国にゆだねるは身も心も民族永遠の亡国であるが、戦って護国の精神に徹するならば、たとい戦い勝たずとも祖国護持の精神が残り、われらの子孫はかならず再起三起するであろう」
という言葉は御存知かもしれませんが、私は、これが太平洋戦争に日本が突入した本当の理由だと考えています。確かに財閥の戦争、侵略戦争という意見もありますが、欧米こそ躍起になってアジアを侵略していたのだと私は言いたい。そもそも日本は勝てると思っていなかった、大前提として欧米による「日本潰し」に黙って潰されることなく、子孫の再起を願って立ち上がった。欧米の言いなりになって植民地同然、格下の民族として未来永劫欧米人に蔑まれるのであれば、ここで多くの命を失って戦争に負けたとしても、将来、日本人という民族が欧米人と対等に付き合えるように未来の我々へ日本を託したのだ。と思えてならないのです。」
ここまで話をすると、河田は一旦言葉を止めた。話の途中から古川はメモを取り出し、頷いたり相槌をうちながら要所要所をメモに取っていた。その手を止めると、すかさず古川は気になっていたことを尋ねた
「なるほど、私も侵略戦争という戦後の言葉には若干違和感を感じていました。その思いから河田さんの船団は、船の名前を大和沖縄特攻の艦隊にちなんだ名前にしているのですか?」
古川の問いに一瞬悪戯をしたのに逆に大人に褒められた少年のように得意気な笑みを見せた河田はすぐにきりっと唇を結ぶと、話を続けた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹