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尖閣~防人の末裔たち

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-中国、日本政府に抗議。海洋監視船に対して海上自衛隊機が威嚇か?-
 という見出しの記事に目を止めた。リンクをタッチすると缶ビールに手を伸ばして固唾を呑むかのようにゆっくりとひと口飲んだ。

-中国外務省は、高田在中国日本大使を呼び出し、「本日尖閣諸島魚釣島(中国名:釣魚島)付近で中国海洋監視船3隻が、日本の海上自衛隊機2機から低空飛行による威嚇を受けた。中国の船舶に対するこのような威嚇は認められない。」として厳重に抗議した。-
「相変わらず一方的だな~。何様のつもりなんだか。」
 と、鼻息荒く呟くと、古川は一気に缶ビールを飲み干した。
かるくゲップをして続きを読み始めた。

-これに対して高田在中国日本大使は、「本件に関しては既に本国から通達が来ており、海上自衛隊のP-3C哨戒機2機は、日本領空で通常の監視飛行を行っていただけであり、我が国の接続水域を航行する貴国の海洋監視船3隻を発見したため、数分間監視を継続しただけである。無線などによる警告も行っていないが、ただ単に監視飛行をしていただけなのだが何をもって威嚇と抗議しているのか?」と回答し、さらに「また、同時間帯に当該の貴国海洋監視船3隻が我が国の接続水域において、我が国の漁船団の航行を執拗に妨害しており、制止する我が国の巡視船の警告を無視し、領海直前まで漁船団への妨害を続けた。このため、本国では在日中国大使に対して厳重に抗議したところだが、貴国ではまだ把握していないのか」と切り返した。これに対して中国外務省は、「確認を急ぐこととする。但し、我が国の当該海域に関する主張は変わらないことは申し上げておく」と回答した。-

「おおっ、流石は在民党、復権した老舗は強いな~。」
 と、古川は独りごちだった。2本目の缶ビールを開けて喉越しを楽しむように喉を鳴らしてビールを呷った。
 正式には自由在民党と呼ばれている在民党は、戦後長らく日本の政権を担当してきた政党で、戦後復興から高度経済成長と冷戦、バブル景気からバブル崩壊まで良くも悪くも表に裏に日本を創ってきた政党であった。その万年与党とも言えた在民党が、民権党に敗れたのは2009年7月の衆議院の解散総選挙のことである。以後、2012年12月の衆議院総選挙で再び政権を握るまでの3年5ヶ月の間苦汁を舐め続けた在民党は、民権党との差をアピールするかのごとく、次々と経済政策を進めると共に、外交問題にも防衛問題にもメスを入れつつあった。今回の高田在中国大使への根回しもその一環であることは言うまでも無く、民権党政権時は考えられないことだった。古川が記事を読み終えると、関連ニュースの欄に
-日本政府が、在日中国大使を総理官邸に呼び、厳重抗議-
 という記事を見つけ、リンク先を開いた。
 内容は、先ほどの記事で高田大使が中国外務省に突きつけた日本政府の厳重抗議についてだった。

 その記事を読みえ終えた頃、携帯のメール着信音が鳴った。古川は携帯を開くと、権田からのメールだった。

-了解。ご苦労さん。受け取ったよ。なかなか読み応えのある記事だな。また「お供」を沢山持って行ったんだろ~-

 と書いてあった。深夜にもかかわらず早速一読してくれたことに感謝の気持ちが湧き上がると同時に、「お供」という言葉に吹き出してしまった。権田の言う「お供」とは、古川が持ち歩いている小道具、即ち仕事に使うモバイル端末の数々のことを示していた。駆け出しの頃から、モバイルギアを始めノートPCや、小型のPDAを両手で持ちきれない程持ち歩いていたのを権田によくからかわれたものだった。
「おい、古川、手は2つしかないんだぞぃ。何台持ちあるってんだ??」
 当時の権田の言葉と眉をひそめている表情が脳裏に浮かぶ。

-早速読んで頂きありがとうございます。「お供」懐かしい響きです。今回は-

 と打ち込んでから、ThinkPadにモバイルギアにスマートフォンT-01Bに携帯電話。。。古川は指折り数えた。

-4台です。俺、だいぶ軍縮頑張りましたよね(苦笑)-
 と書き足して送信した。
 すぐに返事が来た。まるでチャットだ。

-ハハハ、2隻減ったな。それにしても相変わらず持ってんな~。まるで艦隊だ。モバイル・フリート(モバイル艦隊)だな、そりゃ。じ ゃ、また明日。-
と権田

 すかさず古川は
-モバイル・フリート、いいネーミングですね。なんで昔思いつかなかったんですか?-
と権田を煽る。

-いや、お前がさっき送ってくれた河田さんの記事を読んでてふと気付いたんだよ。あちらが漁船に軍艦の名前を付けてるなら、船団より艦隊の方がしっくりきそうだ。そういえばお前のモバイル群も。。。って思っただけさ。じゃあ明朝-
権田は半ば強引に終了を明言した。

-(笑)よろしくおねがいします。-

 そう返事を送信して古川は携帯を閉じた。
 時計の針は11時を回っていた。
 モバイル端末好きは直らないな~。新聞記者時代も記者クラブで目立ってたもんな~。俺も年取ったらこういうこういう端末にはついていけなくなるんだろうか。。。それは悲しいけど。。。ん?河田はタブレットを使いこなしていたな~。そういえばGPSで使ってると言ってたけど、GPSだけなのに何故四六時中端末を操作してたのだろうか。。。
ほのかなビールの酔いにまどろみながら、いつの間にか古川は寝息を立てていた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹