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尖閣~防人の末裔たち

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 若い声が響く。ティーダ6副操縦士の皆川2尉は、高卒者をパイロット要員として採用する航空学生出身で、P-2J時代からのベテランパイロットである。当然防大卒業後パイロットになった長谷川よりも操縦暦は長く、長谷川も皆川に鍛えられた1人だった。そして、ティーダ6の機長の大谷は、長谷川と同じく防大卒業後パイロットとなった。旧日本軍の海軍兵学校や、陸軍士官学校卒業者同様、自衛隊での防衛大学校卒業者の出世は早い。優秀な大谷はとんとん拍子に出世し、若くして1尉となり機長こそしているものの、パイロットとしての腕はまだまだだった。
「ティーダ6。こちらティーダ3の長谷川だ。大谷1尉、お前が操縦しろ。皆川2尉すみません。箔をつけさせてやって下さい。」
 長谷川は大谷には頭ごなしに、皆川には申し訳なさそうに言った。そもそも大谷の腕が上達しないのは謙虚さが足りないからだと長谷川は思っていた。だから皆川さんを副操縦士に付けているのだ。空の上は階級だけじゃ務まらないということを理解するいい機会だ。皆川さんがついているからクルーに危険が及ぶような事態にはならないと思う。少しでも謙虚になってくれれば皆川さんからもっと素直に学べるはずだ。と長谷川は考えていた。
 視線を感じてチラと傍らを見ると高橋が羨むような目線を長谷川に向けていた。目が合うと高橋はパッ目をそらして正面を向いてしまった。
(俺には操縦させてくれないくせに。。。)と目が訴えていた。
「なんだ高橋。シケた面して。なんで俺には操縦させてくれないんですか?って顔してるぜ。」
 長谷川がからかうように言った。
「あ、すみません。図星でしたか。」
 高橋は苦笑いする。
「お前はまだまだヒヨッコだろ~今のお前に本番の特殊飛行をさせたら、クルーの奥さんが全員後家さんになっちまうだろ。もっと鍛えてやるから。覚悟しとけ。」
 長谷川は笑い飛ばした。高橋は、航空学生出身で教育課程を修了してこの隊に配属されてまだ3ヶ月だった
「はい。すみません。覚悟して頑張ります。」
と、真面目に答える高橋に、
「よし!」
と真面目に力強く答えると。長谷川は大声で笑った。
高橋も声を出して笑った。
「TIDA6.This is TIDA3.Are you ready?
(ティーダ6。こちらティーダ3。準備良いか?)」
「This is TIDA3.Yes,We‘ve changed Pilot Flying.
(こちらティーダ3。はい準備完了。操縦担当パイロットも交代しました。)」
「Good.TIDA6.This is TIDA3.Maintain 500、speed150、headding 270.
(良し。ティーダ6。こちらティーダ3。では高度500フィート(約150m)、速度150ノット(時速約250km)を維持、針路270度(真東)」
「Roger,TIDA6.
(ティーダ6了解)」
2機のP-3Cは、漁船団と巡視船、そして中国海洋監視船の群れにまっしぐらに突き進もうとしていた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹