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戒厳令都市デタトンの恐怖

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   戒厳令都市デタトンの恐怖
              針屋 忠道




             












俺はスカイ。今日は、デタトン製薬が起こしたミュータント事件の話をしよう。
これも色々、あった話だよな。
 まあ、後になって知ったことも多かったんだが。大分後でコモン中で戦乱が起きたとき、このミュータント事件も一つの原因であったことが判ったんだよな。
 悪い奴等が裏に居たんだよ。
まあ、俺達も、ポロロンをイジア国へ送り届けて、小イジアから貰った金で懐が暖かくて、あまりデタトンのミュータント問題には関わりたくは無かったんだ。
だけどな、何も悪いことはしていなくても、悪い事は起こる物で、俺達は無理矢理デタトンに行くことになったんだよ。アッパカパー要塞で仕事をしていた時には、予想だにしなかった事も起きたしな。ポロロンが仲間になったんだ。
 まあ、世の中色々在るって事だな。
 (聞き手ノベラーY)



ロマシク・ボンドネードは椅子に座ってデタトン市から帰ってきた兵士達を見ていた。
このフラワー・ビレッジのデタトン問題対策委員会が接収した村長の家ではミュータント問題が起きたデタトンから帰ってきた五人の兵士達の尋問が行われていた。
五人の兵士達には外見上は問題はない。特に怪我をしているわけでもない。だが、ミュータントで溢れかえっているデタトン市に向かっていったミドルン王国の軍隊二千五百人の内、生きて、このフラワービレッジに帰ってきたのは、この五人だけだった。
 何かが在ったことは間違いは無かった。
 ロマシク・ボンドネードの甥であるウッゾ・ボンドネードが、鎧を着た兵士達に言った。
 「何が在ったのだ」
痩せた小柄な兵士が言った。
 「軍隊がミュータントになってしまった」
ウッゾが更に詰問した。
 ウッゾは言った。
 「どういう事だ」
 背の高い兵士が言った。
 「だから、俺達の目の前で次々と軍隊の仲間の兵士達がミュータントに、なっていったんだ」
 ロマシク・ボンドネードの姪のモルガ・ボンドネードがサバイバル・ナイフでハムの塊を切って食べながら言った。
 モルガは言った。
 「もっと分かり易く言えよ。なんで、お前達はミュータントに、ならなかったかだよ」
 ウッゾが言った。
 「モルガ、余計な口を出すな。僕が聞いている」
 モルガがハムをクチャクチャと音を立てて食べながら言った。
「回りくどいこと聞いていないで、重要な事だけを聞けば良いんだよ。アッタマ悪いな」
ウッゾが顔を強ばらせて言った。
 「なんだとモルガ。ボクをバカ呼ばわりするのか」
 モルガが言った。
 「自分からバカって言うんじゃねぇよ。認めているのかよ」
 ウッゾが青ざめた顔を強ばらせた。
 ウッゾは叫んだ。
「貴様!」
 ウッゾはロマシク・ボンドネードの妹のコーネリー・ボンドネードの息子で今年、魔法都市エターナルの大学を卒業したばかりの「白き波濤学派」の魔法使いだった。学業を優先させた結果、ウッゾは、冒険屋としてのキャリアは短かった。
 ロマシク・ボンドネードは言った。
「ウッゾ、モルガ。ケンカはするな」
 ウッゾが何か言いたげにロマシク・ボンドネードを見て叫んだ。
 「伯父さん!」
 ロマシク・ボンドネードもウッゾの言いたいことは判っていたが。黙っていた。
 モルガはニヤニヤと獣のような下品な笑いを浮かべてハムを切っていた。
 ロマシク・ボンドネードは兵士達を促して言った。
 「だが確かにモルガの言うとおり、何故、この兵士達がミュータントにならなかったか、私も興味がある。説明してくれないか」
 背の高い兵士が頷いて言った。
 「マンドン・ジャボルに俺達は捕まったんだ」
ウッゾが言った。
「マンドン・ジャボル?何者だ、ソイツは」
 中肉中背の兵士が言った。
「判らない。だが、ミュータントで在ることは間違いない。巨大な体をしているバケモノだった」
 ロマシク・ボンドネードは兵士達に言った。
「どういうことだ。何処に現れた。デタトン市の中か?」
痩せた小柄な兵士が言った。
 「俺達はデタトン市の中に入っていった」
 小太りの兵士は言った。
「そして俺達は、隊列の一番後に居た、そしてミュータント達に捕まったんだ」
 背の高い兵士が言った。
 「そして、マンドン・ジャボルから伝言を託された」
 そして兵士達は異口同音に同じ言葉を喋りはじめた。
 「デタトンには近づくな。近づくと…」
 兵士達の様子が変だった。デタトン近づくなと言った辺りから声が別人の声になっていた。そして五人とも同じ声で喋っていた。
五人の兵士達は、身悶えを始めた。
 ウッゾがロマシク・ボンドネードを見て言った。
 「伯父さん様子が変ですよ」
 ロマシク・ボンドネードは兵士達の身体が膨れ上がったり伸びたりしているの見て鋭く叫んだ。
 「ウッゾ!下がれ!」
 そしてロマシク・ボンドネードは椅子から素早く立ち上がった。
 モルガはハムの塊を突き刺したサバイバル・ナイフの柄を口にくわえて腰の剣を抜いた。
ウッゾは振り向いた。そして、異形の怪物に変化した五人の元兵士達を見て動きが止まった。ウッゾの冒険屋としてのキャリアの短さが出てしまった。
 ごく短い時間の間に五人の兵士達は怪物へと変わっていた。
 小太りの兵士は身体が鋼鉄の輝きを持っていた。そして、その身体は、ずんぐりとしている胴体の上にサイの頭が付いていた。そして鋼鉄の刃物の輝きを持つ角が全身に生えていた。
 背の高い兵士は全身がヌルヌルとした皮膚で覆われた、ウナギのような頭の付いた怪物に変わった。肩が異常な球形に膨れ上がっていた。
 中肉中背の兵士は爬虫類のザラザラした皮膚に変わり、その頭にはカメレオンの頭が付いていた。
痩せた兵士は全身が緑色になって葉っぱが生えていた。そして顔が在ったはずの場所に巨大な赤い花が咲いていた。
痩せた小柄な兵士は巨大な刃物のように鋭い犬歯を生やしたチーター人間に変わっていた。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「ウッゾ!モルガ!逃げるぞ!早く来い!」
 ロマシク・ボンドネードは怪物の姿を確認すると窓を目指して駆けていった。扉の方は5匹の怪物達が居る。だから窓を目指して逃げ出したのだ。
 ロマシク・ボンドネードが使う、エターナル魔術は発動までに時間が掛かるため、こういった不意打ちに近い状態では、距離を取って逃げることが大事だった。ロマシク・ボンドネードは、情けなく見えても、馬鹿にされても、けなされても、なじられても、嘲笑されてもケチョンケチョンにされても、常に安全策を取り続けることが人生哲学だった。
窓枠に足を掛けて後を振り向いた。
 モルガが開いている左手で、ウッゾの首根っこを引っ張った。
 硬直したままのウッゾが引っ張られた。
怪物達が同じ抑揚で話し始めた。
「逃げるな。コラ。責任者。私の話を聞け。このマンドン・ジャボルの話を」
チーター男が消えた。
 そして次の瞬間、ウッゾの首が落ちていた。