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ひとりごと

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また森が見えてきた。朝とは違う光が木々の隙間から漏れている。黄色い光一色だった今朝の道には赤や青、緑、白、黒、黄色、様々な色たちが自信の場所を奪い合うようにせめぎあっていた。その上を歩く。昌下の足と鍵音の手足、計6足の(手)足によってその境界は混ぜ合わされ、境目をなくした。
「じゃあ、また明日な」昌下が鍵音の帰り道の反対の方へ向かっていく。

もしかしたら誰かさんはこのために僕をねこにしたのだろうか。

今日一日で過去三年間の昌下との付き合いよりかなり近くに行けたように感じた。もしかすると昌下は鍵音が期待しているようなことはなにも考えてなかったのかもしれない。それでも鍵音がそう思い込むだけで鍵音には十分だった。いつか聞けるときが来たのなら、それとなく聞いてみよう。
「あのとき、ねこになってたの気づいてた?」と。

こうして僕、鍵音の世界はまた再び私、 の世界へと戻ることになった。



後ろを振り替える。あの世界の境目の校門が見える。恐ろしくてたまらなかったこの校門の先の世界も昌下との貴重な時間を過ごさせてくれたと思うと少しいいやつに見えてくる。四足歩行の私の目線はかなり低いはずだが、いつもと変わらない位置にあるのももうなれてしまった。ここから今朝歩いてきた道が見える。こんな景色だったのかと来た道を眺めていた。風がさっと通りすぎ、私の毛並みを整える。今日からまた新しい日々が始まる。明日は電車を使わないで来てみようか。それともひさしぶりに自転車で来てみるか。この爽やかな風を颯爽と駆け抜けるのも気持ちがいいかもしれない。坂だ。郵便局付近の急な坂をおもいっきり跳ばすのも面白い。昨日まではただの道だった景色すら楽しめる。ねこの姿がもとに戻っても楽しめる気がする。カーブミラーが私を写す。今朝よりきれいに。美しく。このためにねこになったのかもしれない。私は生きて生きて生きて、そして生きてきた。理由などもちろん考えるだけ無駄であった。それを考えるとやはり門の向こうの世界が窮屈に感じてしまう。あいつらは何かを持っている。私は持っていない。その劣等感を感じてしまう。でも、それでもいいじゃないか。そういえる今がとても面白い。その矛盾と言えるような感情は感情を中和できるようになったということだろう。ただ一回の変身がここまで私を変えるのかとねこの私に感謝したい。私の役職が変わったとか、恋人ができたとか、特に何かが変わったわけではない。なんとなく昌下のまたな、が私を受けいてくれたように誤解したのかもしれない。それでも私のなかで、向こうの世界が私を受け入れてくれたように感じた。風がまた通る。すっと通る。気持ちいい。これまでで一番。
私は校門をくぐった時、このねこの姿が消えずに明日も、明後日も続いてほしいと思っていた。ねこなら人間の世界も私を受け入れてくれるだろうと考えたのだ。だが、ねこの私は自分の手足で昌下との境界をなくすことができた。私は自分の力で溶け込むことができた。明日もきていい。そういってくれたように感じた。それならもうこのは姿いらないな。私は清々しい気持ちのまま駅に堂々と入り、点字ブロック前で電車を待つ。風が通り抜ける。自然と電車の風が混ざりあっている。まるで私と鍵音のように。私は鍵音だ。そう、人間の鍵音だ。大学生の鍵音だ。そして扉の向こうには人間がたくさん待っていた。

電車を降り、家についた。隣のドアはやはり錆びている。下から人が上ってくる。その人は私の横で立ち止まり鍵を取りだし、ドアを開けようとしたが、横に見えた私に気づいて、
「すいませんね、錆びてうるさいでしょ」隣の男性は困ったようにしながら私に話しかけてきた。
「直してみましょうか」私は初めて私として話をした。
作品名:ひとりごと 作家名:晴(ハル)