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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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第六章:ブルーラグーンの戸惑い(4)-ライバルとの対面①



 小坂が言うところの、「丸っこくて声大きくて結構ケバくて胸がこうバーンとデカい」女性は、第1部のすぐ下のフロアにある、第8部西欧課地域分析班に所属していた。「日垣1佐が好み」と公言したらしいこの大胆なライバルと、美紗がじっくり顔を合わせることになったのは、直轄チームで「奥様代理」の話題が出た翌日の昼休みだった。

 自席で昼食を済ませた美紗が、身づくろいを整えようと女子更衣室に入ると、二人の女性職員が弁当持参で部屋のテーブルを占領していた。一人は総務課の吉谷綾子、そして、もう一人は、三十を少し出たくらいの、全体的にふくよかなラインの女だった。同性でさえ思わず目を向けてしまうほどインパクトのある胸元には、「大須賀 恵」と表記された名札が付いていた。
 美紗は、二人に軽く会釈すると、急いで奥の方にある自分のロッカーへと向かった。初めて間近に見た「ライバル」は、人目を惹く体形に加え、吉谷綾子とはまた違う派手なファッションを身にまとい、小坂の表現するとおり、濃い目のメイクでバッチリと決めていた。その彼女が、吉谷相手に早口で喋りまくっている。とても、自分から声をかけて相手の出方を探るような真似は、できなかった。
 一方の大須賀は、テーブルの横を通り過ぎた美紗をちらりと見た後、すぐに吉谷との雑談に戻った。
「もう語学系のポストには戻らないんですかあ?」
「どうしようかな。文書班長の仕事は結構気に入ってるんだけど……」
 間延びした口調で話す大須賀に、吉谷は、弁当の中身をつつきながら、リラックスした表情で答えた。二人は、十歳ほど年が離れているように見えるが、かなり親しい関係らしい。
「……そろそろ、育休明けの後輩にポストを譲ったほうがいいかな、とも思うトコなのよね」
「だったら、また8部に戻ってきてくださいよお。吉谷さんいたら、何かと心強いですもん。オジサン達、恐れおののいて誰も逆らわないから」
「何よそれ。どういう意味?」
 すねた顔を作る吉谷に、大須賀は、ローズピンクの口紅を塗った口を大きく開けて賑やかに笑った。
「あ、そうだ。今週末、うち主体で女子会やるんですけど、よかったら吉谷さんもどうですか? たまには旦那さんにお子さん預けて」
「今度の金曜日? そこは予定入っちゃってるんだ。大使館でレセプションがあって、それに行くことになってるのよ」