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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 知らないおじさんの暴力は激しくなりました。
 お腹を踏まれながら見た天井には、神様はいませんでした。神様はわたしを見ることすらしないのです。
 わたしは許す限りおじさんの目から離れた場所に行き、おじさんが近くにいるときも、一言も発せずただ部屋の片隅で身を潜めました。
 このまま姿が消えてしまえばいいと思いました。
 だから殴られても蹴られても踏まれても、声すら出さないようにしました。そうしていれば自分が消えると信じていたのです。
 やがておじさんに見向きもされなくなりました。
 きっとわたしはいらない子になったのです。いらなくなるということが消えるということなのです。
 誰からも必要とされていないことがわかりました。
 そこにいれば嫌われてしまう。
 公園で遊んでいても、みんなわたしのことを嫌って近づいてきません。
 そんなときでした――わたしの前にミケちゃんが現れたのは。
 ミケちゃんはいっぱい遊んでくれました。
 ミケちゃんはわたしのことキライじゃないって、スキだって言ってくれました。
 ひとからスキと言われたのは、はじめてでした。心の中に温かい光を入れてもらったような気がしました。
 あのときの世界は、ミケちゃんとふたりだけの世界は、とても輝いて見えました。
 わたしはミケちゃんがスキでした。
 だからわたしの大切なものをプレゼントしようと思いました。光になるなにかを。
 雨の日の公園にプレゼントを持って行きました。
 けれどその日はいくら待ってもミケちゃんは来ませんでした。でも悲しくはありませんでした。だってミケちゃんを待っていることが楽しかったから。
 次の日も雨が降っていました。わくわくしながら待っていると、ミケちゃんが来てくれました。わたしはうれしくて、ドキドキした気持ちでプレゼントをあげました。
 でも……それは拒否されました。
 なにがなんだかわかりませんでした。
 ただとても悲しくて、わからないけど悲しくて、涙がいっぱい出ました。
 きっとわたしのせいだと思いました。
 ミケちゃんに嫌われたくなくて、ずっとその公園でミケちゃんが帰ってくるのを待っていました。だけどミケちゃんは来ませんでした。
 夜になってもミケちゃんは来なくて、朝になってもミケちゃんは来なくて。
 ずっと雨の中にいたわたしは、ついに倒れてしまいました。
 砂に埋もれて死んでいくんだなって思いました。
 ミケちゃんにも嫌われて、ほかの誰からも嫌われて、いらない子なら死んでしまったほうがいいと思いました。
 でもわたしは助かってしまいました。
 わたしを助けてくれたのはミケちゃんと一緒にいた赤いおじさんでした。
 赤いおじさんには感謝をしています。でも助かってしまったことは後悔することになりました。
 わたしが助かってしまったことで、また代わりに殺してしまったのです。
 いつものようにひとりで外に出かけている間に、家は火事で焼けて中にいた弟とおじさんが死にました。おじさんのタバコの不始末が原因でした。
 おじさんの死はちっとも悲しくありませんでした。けれど弟の死はとても辛く、この世界には神などいないと確信しました。だって弟は神様に祝福されていたはずなのです。
 自分が死ぬ理由がなくなってしまったように感じました。だってわたしのことがいらなかったおじさんは死んでしまったのだから。
 わたしは祖母に引き取られ暮らすことになりました。
 しばらくの間は平穏で、きっとしあわせだったと思います。
 でもいつしか祖母はわたしをいらない子として扱うようになりました。きっとわたしがいけなかったのです。
 わたしは心を閉ざしていました。ミケちゃん以外には心を開いたことがありませんでした。それが同年代の子供たちには異質だったのかもしれません。
 学校ではいじめや裏切り、ほかの場所でもやってもいないことで怒られたりしました。
 世界はわたしの敵なのだと思いました。
 それまでずっと逃げたり耐えてして来ましたが、わたしはそれをやめました。
 その後、わたしは施設で過ごすことになりました。
 たくさんの敵とも戦いました。
 けれど、わたしはいつも悲しかった。悲しかったというより、虚しかったのでしょう。
 そんなとき、わたしは彼女と出会いました。
 はじめのうちは鬱陶しくも思いましたが、いつの間にかわたしは彼女のことが気になりはじめました。そんな矢先、彼女は死にました。
 理由はわからないけれど、きっとわたしが殺してしまったのだと思いました。
 わたしの代わりにいつも人が死ぬのです。だから死のうと決意しました。
 でもやはりわたしは助かってしまいました。
 わたしを助けてくれた人が、誰なのか一目でわかりました。赤いおじさんがわたしを助けてくれたのです。
 あのときわたしは光が見えたような気がします。
 でもわたしは生きていてはいけない。
 そんなわたしに赤いおじさんはミケちゃんの話をしてくれました。
 光が強くなったような気がしました。
 過去に見た光。
 わたしは死にたくないと思いました。
 そして、少しでも光に近づきたいと思いました。
 温かい光。
 その光をつかむには、自分が優しく温かい存在にならなければいけないと思いました。そうしなければ光には触れられるはずもないのです。
 わたしは必死になって光を演じようとしました。
 暗い部分はすべて胸の中に押し込めて、押し込めて、押し込めて。
 やがてわたしは過去を忘却しました。
 わたしは生まれ変わったのです。
 でも、それは違いました。
 押し込めば押し込むほど反発は強くなります。その反発に気づかなかった、いえ忘れようと自然にしていたのでしょう。
 なのに周りはそれを思い起こさせるのです。
 しばらく忘れていた恐怖という感情。
 わたしはあの子のようにはなれなくて、うらやましくて。
 やっぱりわたしはだめでした。
 みんながわたしの大切なものを奪おうとして、怖くて。
 わたしはやっぱりだめなんです。
 光には手が届かない。
 そこに光は見えているのに、こんなに手を伸ばしているのに、なんで……。
 ミケちゃん、わたしミケちゃんのことがスキなの!

 ?少女?が伸ばした手を誰かが優しくつかんだ。

 向かい合って手を繋いでいる二人。
 目の前に現れたミケを見て?少女?は驚いた顔をしている。
「ミケちゃん!」
「ごめん、そしてありがとう」
 過去に忘れてきたその言葉を時を越えて言うことができた。
 そして、もうひとつの大切な忘れもの。
「今でもキライじゃないよ、スキだよ……?のぞみ?のこと」
 ミケは?のぞみ?のおでこにキスをした。
 やっと名前を呼んでもらえた?のぞみ?は顔を真っ赤にしながら微笑んだ。
 ?少女?の本当の名前は天野希望(あまののぞみ)。
 彼女は決して望まれない子供ではなかったのだ。
 歓喜の鈴(ベル)が鳴り響く。
 辺りは黄金色に輝きはじめ、咲き誇る花々の中で祝福の歌う猫たちと、青い空を飛び交うペンギンの群れ。
 そして、世界は温かな光に包まれた。