ぺんにゃん♪
すぐに謝るペン子だったが、彼女のほうが重傷に思われた。片腕が完全に消失していたのだ。
言葉も出ないミケの視線を感じたペン子は笑った。
「だいじょうぶですよ、この通り」
ペン子はきぐるみの中に引っ込めていた腕をひょいっと出した。どうやらフリッパーを切断される寸前に腕を引っ込めたらしい。
しかし、なぜかペン子はすぐに出した腕をきぐるみの中にしまってしまった。
フリッパーの一撃で何メートルも飛ばされていたアレックは、ゆっくりと立ち上あがると口から血の混ざった唾を吐き捨てた。
「互いに守り合う存在か……余は今、明確な目的を決めた。やはり〈聖杯〉は諦める」
その言葉を聞いてペン子は表情をやわらかくして、なにか言おうと口を開いたが、さらにアレックは続けた。
「その女を殺すことが兄上を苦しめる方法だとわかったからだーッ!」
斬りかかって来るアレック。ペン子はその場から逃げないつもりだ。残った腕を広げてアレックを受け止めようとした。
ミケは体力がもう残っていなかったが、命を削る思いでアレックに飛びかかった。決死の突撃はアレックが躱す隙も与えず、二人はもつれ合いながら床の上を転がった。
倒れた二人。
上に乗っていたミケと下にいるアレックが睨み合う。
が、ここでミケはある違和感を覚えた。
アレックの軽鎧(けいがい)はニャース族の跳躍力や瞬発力を活かすために、軽く簡単な構造になっているらしく、下半身の装備は極端に少なく、薄い皮や綿などの素材が大部分を占めていた。
ミケの手はアレックの股間の上に乗っていた。
「ちんこがねぇーーーーーッ!!」
えっ、ええええええぇぇぇぇ〜〜〜〜ッッ!?
嫌悪を顔にしたアレックの膝蹴りがミケの股間を直撃した。
「痛ァッ!」
ミケは飛び上がって股間を押さえながらヨロヨロと後ずさった。
そして、まだのその生暖かい感触が残る手をモミモミと動かした。
「お、女だったのか……オレの妹かッ!?」
「五月蠅い!」
大剣を落としていたアレックは素手でミケの顔面を殴り倒し、今度はアレックがミケの上に馬乗りになって、そのまま何度も何度もミケの顔面を殴った。
すぐにペン子が止めに入ろうとするが、それよりも早くアレックは輝く指環をした手のひらをミケの胸部に押しつけた。
「貴様の力、すべて奪い取ってくれる!」
指環が目の眩む閃光を放出し、その一瞬、ミケは自分の躰の中に手が侵入してくるような不快感を覚えた。
実際は手など入っていなかったが、なにかを抜き取られたことは確実だった。
急激にミケは躰の重さを感じ、指も動かせぬほどの倦怠感と疲労、さらにはまるで肉体が枯れていく感覚がした。目に見える顔のやつれや、目の下に隈も現れていた。
もう言葉を発することもままならないミケは口を開き、
「な…な……にを……」
「クハハハハハッ、もう貴様にはなにもない。躰を動かす力も、〈サトリ〉さえも失われたのだ。今の貴様にはなんの取り柄も残されていない。生きる価値などないのだ!」
「生きる価値はあります!」
叫んだのはペン子だった。
狂気を浮かべたアレックはペン子を睨む。
「あとは貴様だけだ。貴様を殺せば、それで本当に兄上にはなにもない!」
アレックは大剣を拾い上げ、鬼気を纏いながら飛翔した。
「そうはさせぬぞ――壱・弐・参!」
紅いマントが翻されアレックを呑み込むほどの光の玉――光氣弾(こうきだん)が放たれた。
謎の一撃を受けたアレックを尻目にバロンが叫ぶ。
「ひとまず我が息子と逃げるのだッ!」
ペン子はすぐにミケを抱きかかえたが、そこで戸惑った。
「みなさんを置いてはいけません!」
「あとは我が輩がどうにかする、行け未来ある少女よッ!」
切迫した状況で、ペン子は心を決めて逃げ出した。
「逃がすかーーーッ!」
アレックが再びペン子に襲いかかろうとしていた。
だが、ここでバロンが!
「すまん、忘れ物だ!」
バロンの手からペン子へ小さな輝きが投げられた。
それは指環だった。
ペン子はそれを取ろうとするが、ミケを抱えて逃げることに必死だったので、上手くキャッチできない!
指環はペン子の頭上を越えて――
「金目の物だーッ!」
叫んだパンダマンにキャッチされ、そのまま強奪された。
逃走するパンダマンを追ってペン子もその場から逃げ出したのだった。
作品名:ぺんにゃん♪ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)