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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 叫びながらアレックはミケの帽子を剥ぎ取った。そして、眼を剥いて嗤った。
「クッ、クハハハハハハッ、兄上か、貴様が兄上か、なぜこんなところにいる? 今頃現れて何になるというのだッ!」
 アレックはそのままミケの首を締め上げた。
「くっ……(オレは同族にまで命を狙われてるのかよ)」
 しかしミケを救おうとしたのはワンコ族であった。
 薙がれた大剣を躱すためにアレックがミケを残して飛び退いた。
「ほう、それが噂の狂剣ウルファングか。余の獅子王剣とどちらが強く残酷か試してみるか?」
 アレックが鞘から長剣を抜いたと同時に衝撃波が趨った。
 間合いを詰めることはおろか、躱すことすらできずにポチの胸は血を噴いていた。
 膝から崩れ落ちるポチを見てアレックは嗤った。
「弱すぎる、弱すぎるぞ暗黒公子。だが余の一撃を喰らっても躰が断絶されぬとは、肉体だけは強靱と見える」
「肉体ではない、心が強靱なのだ。俺の本来の目的はエロリックの抹殺だったが、俺がエロリックに憎しみを覚えることはなかった。しかし貴様は違うぞアレック!」
 傷口が開くのも顧みずポチはアレックに斬りかかった。
「貴様はニャー帝国を具現化した悪そのもの、絶対に殺さねばならないのだッ!」
 地球にやって来てからというもの、いつしか平和な飽和状態の中にポチは浸りきっていた。だが、アレックの出現はポチの中に眠っていた憎悪を蘇らせた。
 ポチの渾身の一撃が振り下ろされた。
 ぶつかり合う金属が吼えた。
 刃を交え、その先で視線を合わせる二人。アレックの躰が押されている。
 押しているポチの躰が見る見るうちに変わりつつある。
 しかし、アレックが一気に力を込めて剣ごとポチを押し返した。
「暗黒公子ともあろうものが、下品な戦いをするのだな……超獣化するつもりかッ!」
 ポチの着ていた服が弾け飛び、躰が膨れ上がると共に骨格が変形していく。黒く長い毛が全身を覆い流れ、四つ足の大狼が吠えた。
 ウォォォォォォォン!!
 大狼の巨大さは象ほどもあり、それよりも遙かに俊敏で獰猛だった。
 巨大な鉄球のような大狼の前足がアレックに襲いかかる!
 アレックは突きの構えで迫ってくる足を迎え撃った。
「ぐわッ!」
 強烈な一撃を喰らって弾き飛ばされたアレックだが、その刃は前足を貫通していた。
 首を大きく振りながら吠える大狼。暴れ狂いながら刺さった剣を口に咥えて抜き捨て、さらにその口から地獄の業火を吐いた。
 刹那にして辺りは火の海に沈んだ。
 その海の中から長剣を構えたアレックが飛び出した。
「死ねーッなにぃ!?」
 勢いづいていたアレックの目と鼻の先に現れたミケ。強烈なパンチがアレックの頬を抉った。
 しかし、殴られバランスを崩しながらも、アレックの刃は大狼の肉を深く突き破った。
 剣が刺さったまま大狼がのたうち回る。
 アレックの顔が憎悪に彩られる。
「おのれーッ、心臓を外したではないかッ!」
 だが、心臓に近い位置に剣を突き立てられた大狼は苦しみ藻掻き、やがては床の上で痙攣して躰の自由が利かなくなってしまった。
 アレックは髪の毛を掻き毟った。
「過去の亡霊が今更なぜ黄泉返ったのだ。貴様のせいで、貴様のせいで、余の人生は破滅だーッ!」
「オレがてめぇの人生になにしたってんだよ!」
 互いに素手で殴り合い、腕が交差したと同時に二人揃って頬が抉られた。
 衝撃により後方に飛ばされたアレックは床に手を付き、ミケは躰の側面から床に落ちて転がった。
 ゆっくりと立ち上がったミケは両手を膝について息を切らせている。対照的にアレックは息一つ切らせず嘲り嗤っていた。
「クククッもう体力の限界か? まさか指環(リング)をなくしたのではあるまいな?」
「(リング……オレが親父に拾われたときに持ってた指環(ゆびわ)か)」
「そうだ、そのリングだ。〈サトリ〉の能力を制御し、アルビノである我らに力を与える。なるほどリングを持たぬから貴様の心の声が聞こえたのか」
「そっちからは聞こえて、こっちからは聞こえないわけか。こっちの立場になってわかったけど、最低だなこの能力」
 今までと立場が逆転したミケ。あまり心地の良いものではなかった。
 素早く動いたアレックは離れた場所に落ちていたウルファングを拾い上げた。
「白獅子の血統は余だけで十分!」
 斬りかかってくるアレックをミケは躱そうとするも、思うように脚が動かずもつれてしまった。このままでは斬られてしまうというとき、両手を広げたパン子がアレックの前に立ちはだかった。
「ミケ様は殺させない!」
「どけ女ッ!」
 アレックは重い大剣を両手から片手に持ち替えて、手のひらでパン子の頬を叩き飛ばした。吹っ飛ばされたパン子が道を開け、アレックはそのまま大剣を薙いでミケを斬ろうとした。
 だが、そこにミケの姿はない!?
「もうやめてください」
 ミケを抱きかかえそこに立っていたのはペン子だった。
 ペンギンスーツは汚れ、衝撃波を喰らった背中には小さな亀裂が走り、そこから火花が散っている。
 アレックは正直驚いたようだった。
「生きていたのか〈聖杯〉の宿主」
「ヒナが〈聖杯〉の宿主?」
「知らんのか、貴様の内に封印されているという〈パンドラの箱〉と、その中にあるという〈聖杯〉を? それとも惚けているのか?」
「それはいったいなんなのですか?」
 ペン子の表情を見る限り本当に知らないらしい。それにはアレックも納得したようだ。
「封印のせいか声が聞こえん」
 ミケ同様にアレックにもペン子の心の声が聞こえないらしい。
 ならばとアレックは語りはじめる。
「余の目的は〈聖杯〉の探求。〈聖杯〉とは仮の名で、実際のところはそれがなにかわかってはおらぬ。宇宙法則を覆すほどの強大な力とされているらしいが、詳細は不明だ。
 余はそれを手に入れようと思ったが、封印の解き方がわからぬ。ならばそのような得たいの知れぬ力は人の手に渡る前に破壊するまでのこと。
 兄上、貴様に出会ったのは偶然だ。本当に腹の煮えくりかえる偶然だ」
 すでに床に降ろされていたミケは心の底から自分の運命を呪った。
「偶然のせいでオレは兄弟に命狙われるのか。生まれたときから本当に嫌な運命だな」
 それを聞いたアレックの顔に憎悪が浮かぶ。
「嫌な運命だと? 余の背負わされたモノに比べれば生ぬるい。このような平和呆けした世界で生きてきた貴様など、幸運すぎる」
「てめぇになにがわかるんだよ!」
「貴様こそ余のなにがわかるというのだ。余の苦しみは余にしかわからぬ。誰よりも余の苦しみは過酷なのだ!」
 ペン子が凜として言い放つ。
「苦しみは比べるものでも、比べられるものでもありません」
「貴様に余のなにがわかるのだ。女のくせに腹が立つ、今すぐ斬って捨ててくれる!」
 大剣を構えたアレックの懐にミケは忍び込んだ。
「させるかッ!」
 ミケのアッパーカットが決まった。
 しかし、アレックは狼狽えずに大剣を振るった。
 それをペンギンの羽翼(フリツパー)で受け止めたペン子。だが受けきれずにフリッパーは切断されてしまった。だがもう片方のフリッパーでアレックを叩き飛ばした。
「ごめんなさい!」