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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第6話「悟られないモノ」


じゅるるるるるるるぅ〜〜〜。
 熱い日本茶を飲みながら過ごす地球の午後。
 お茶を飲むポチの周りでは、五つ子ちゃんたちが元気に遊んでいる。
 バニースーツにエプロン姿のパン子ママが、となりの部屋から顔を見せた。
「ポチさん今晩のご飯なにがいいかしら?」
「そうですねー、バニーちゃんの作ってくれる物ならなんでもいいですよ」
「最近は好きな食材が買えるようになって、料理が楽しくて仕方ないわ」
 そんなトークをしていると、イケメンパンダマンが現れた。
「そろそろ仕事に行ってくるぜマイバニー」
 美声を響かせるパンダマン弐号。
「いってらっしゃいアナタ♪」
 二人は抱き合って熱いキスをした。
 そして、さっそく仕事に出かけたパンダマン弐号であった。
 今日も平和だ。
 ビビビビビビビビ!
 そんな平和をぶち壊す電子音。
 ムッとしながらポチが部屋の片隅を見ると、
「俺のノーパソ!」
 慌ててポチはノートパソコンを操作して呼び出しに応答した。
 それは遠く離れた母国――ワン帝国からの通信であった。
 画面に映し出される犬耳のシルエット。
《喝(ワン)ッ!》
 いきなり吠えられポチは驚いて腰を抜かした。
「こ、これはこれは偉大なる大魔王アーロン様!」
《今まで連絡一つ寄越さずなにをしておったのだ!》
「いやっ、それが……宇宙船が爆発し仲間たちも行方不明となり、このパソコンも修理が必要だったのですが、地球ではなかなか部品が見つからず」
「言い訳など聞きたくないわ!」
「申しわけございません大魔王アーロン様」
「エロリック暗殺はどうなった!」
「それが……」
 ブチッ。
 いきなり通信が切れた。
 ポチが横を見ると五つ子の一匹がノートパソコンを勝手にいじっていた。
「大魔王様との通信中になんてことを! と思ったけど、まあいいか。このまま電源も落としておこう」
 不慮の事故ということにした。

 ペン子のストーカーをするミケのストーカーをするパン子とポチ。
「なんでアンタが!」&「なんで貴様が!」
 ペン子とポチは顔を見合わせた。必然の鉢合わせだった。
 今や同じ屋根の下に住んでしまっているが、この二人は顔を合わせる度にケンカが絶えなかった。
「ミケ様に指一本でも触れたら殺すから!」
「エロリックは必ず殺す!」
 パン子の視線の端で動きがあった。
「あっ、ミケ様が動き出した」
「本当だ。だが、どうしてエロリックはペンギンをつけ回しているのだ……腹が立つ」
「それはアタシも同感……って、もしかしてアンタ、ペンギンのことが好きなの!?」
「そ、それは……」
 急に慌てだしたポチ。わかりやすい反応だった。
 人の弱みを握ったパン子はニタ〜っとする。
「あのペンギンのこと好きなんだぁ〜。だったら付き合っちゃえばいいじゃん?」
「馬鹿なッ! 誇り高きワンコ族の貴族の俺が辺境の地の女となど……」
「でも好きなんでしょ? ほらほらさっさとコクりやがれぇぇぇッ!」
 パン子は渾身の馬鹿力でポチの背中を押し飛ばした。
「うお〜〜〜っ!」
 押されたポチはそのままペン子の元へ。
「あ、ポチさんこんにちは」
「こんにち――」
 ドン!
 ポチは止まれずそのままコケた。
「大丈夫ですか?」
 ペン子に優しく手を伸ばされ、ポチは顔を真っ赤にして自ら立ち上がった。
「鍛えてるから大丈夫!」
 と言いながら、鼻からブーしていた。
 ペン子はハンカチを出して、鼻血を拭いてあげた。
 目と鼻の先ほどの距離にペン子の顔がある。ふっくらした唇がそこに……そんなことされたら余計にブー!
「きゃっ!」
 返り血を浴びたペン子。
 血だらけのその姿を見てポチは悶々してきた。
「(駄目だ血を見たら興奮してきた。俺は誇り高きワンコ族の騎士だ、いつでも俺は冷静だ。よしっ、いける!)すまなかった、俺の血で貴女を穢してしまうなんて」
 真剣な眼差しだったが、鼻血ダラダラ垂れ流し。
「謝らないでください、ヒナは大丈夫ですから。ヒナよりもポチさんが貧血にならないかと心配です」
「最近は良い肉食べてるから大丈夫!」
 でも鼻血ダラダラ。
 ペン子はどこかに持っていたタオルで血を拭き、ポチの鼻血もようやく治まったところで、会話が途切れた。
 焦るポチ。
「(なにを話せばいいのだ。気まずいぞ、どういう会話をしたらいいのだッ!)」
 ポチがなにか突破口がないかと辺りを見回すと、遠くで看板を掲げているパン子の姿が目に入った。
 そこには『告白しろ!』と書かれていた。
 挙動不審なポチをペン子が不思議そうな顔で見た。
「どうかしましたか?」
「す、す……スキヤキにしようと思う今晩の夕食は(なに言ってるんだ俺は)」
「おいしそうですね。でもお肉ばっかりではなくてお魚もちゃんと食べてくださいね」
「ペ、ペンギンさんは夕食の献立は?」
「グミです」
「はっ?」
「ヒナはグミが主食なんです。お一ついかがですか?」
 袋詰めのグミを差し出された。
「一つ頂こう」
 ポチが袋の中から摘んで出したのは、ペンギンの形のグミだった。それを知ったペン子はニッコリ笑顔。
「ラッキーですね、それ一個しか入ってないジャイアントペンギンです」
「ジャイアントペンギン?」
「絶滅してしまったと言われているぺんぎんです。でもヒナはきっと絶滅したのではなくて、お空を飛んで別の安全な場所に移住したのだと思うのです」
「ペンギンが好きなのか?」
「はい、幼いころからずっと好きです」
「そうか……俺も貴女のことが、す――」
 シャリン♪
 鈴の音がしてポチは辺りを見回した。
 ペン子も同じようにキョロキョロしていた。
 急にペン子が真面目な顔をして、
「あの、綾織さんのことどうするおつもりですか?」
「綾織……エロリックのことか。どうするもなにも抹殺するのが俺の使命だ」
「そうですか……」
 影のある表情をしながらペン子はうつむいてしまった。
 ポチは言葉にできない苦しみに襲われた。
「(俺は……ペンギンのこんな表情……いつも笑顔なのに。しかし)俺は絶対に使命を果たす。なぜならそれがワンコ族の為だからだ」
 そう思い続けてポチは今もここにいる。
「ニャー帝国の政治は狂ってる。すべてはニャース族の皇族どものせいだ。やつらは人を信じると言うことを知らない。知る必要もないと思っている。裏切り者たちを次々と血祭りに上げ、やがて盲目な疑いがすべての人に向けられる。種族の違うワンコ族はそのいい標的だ」
 すべては〈サトリ〉があるがゆえに……。
 ポチは拳を握った。
「すべては死んでいった同胞たちの復讐。そして、自由のある未来を勝ち取るため」
 ずっとうつむいて話を聞いていたペン子が、哀しみの瞳をポチに向けた。
「憎しみはきっと新たな憎しみを生みます。その憎しみの芽を摘み続けるつもりですかポチさんは?」
「俺は俺の使命を果たさなければならない」
「憎しみや悲しみの連鎖は巡り巡ります。自分とは無関係だと思っていた人々まで輪が広がり、やがては親しく想っていた人にも憎まれるかもしれませんね。まるで世界そのものが自分の敵のように……そう、世界が自分の敵」
 最後の言葉は呟きながら、まるで内に込めるような言い方だった。