BOOK~白紙の魔道書~
ハルトは冷徹な声でそう告げた、瞬時カノンの脳内には様々な展開が思い浮かんだが、どうあがいても勝つ方法が見つからず。
数瞬の静寂の後、カノンは。
「く……私の負けよ……と…言うと思ったかしらぁ!!」
その言葉と共に、ハルトの腹部で何かが破裂した。
それは、カノンの背負っているライフルの光弾、それが、なぜか振り返りハルトの方向へと向けられた砲身から発射されたのだった。
損傷は軽度、外傷はなし、けれどその衝撃と魔力ダメージは相当通っている様子だ。
ハルトは、その場から大きく吹き飛ばされ、そのまま舞台の端障壁に激突した。
「ぐうぉ!!!」
絞り出したような声を出すハルト、彼はその場に横たわったまま動かない、これは終わったと誰もが確信しカノンもそれを感じるまで数秒とかからなかった。
「私の勝ちね……」
そうカノンが言い放った時だった、ハルトの体はビクビクと動き出し、よろよろと立ち上がった。
「やだなぁ…まだ終わりじゃないよ……勝負はここからさ」
ニヤリと笑うハルト、正直もう立つことすらやっとだった、一撃しか食らっていないものの、チャージされたライフルの一撃を食らったのだ。
「ゾンビか何かなの貴方……いいわ殺してあげる!!」
今の二人の距離はカノンの距離だった、今度は余裕も油断もない、確実に目の前の敵、ハルトを殺すためだけに全てを注ぐ準備を固めた。
「いやぁ…モテる男はつらいねぇ……」
ふらつきながらそう軽口を叩くハルト、彼もまた次の一撃を全力で躱しカノンを打ち破る算段を完成させていた。
行くよと誰にも聞こえない声でハルトはつぶやき、カノンに向かい走る。
カノンはそれを迎撃するために、全火力をハルトに向け、発射する、発射された銃弾には様々な術式が付与されており、それらは全てハルトの体を撃ち貫いた“はずだった”
次の瞬間、迎撃されたはずのハルトは、再びカノンの背後にたち、撃ち貫かれているのはカノンが背負っていたライフルだった。
「今度こそチェックメイトだね……」
「くっ…ふざけるなぁ!!……!?」
カノンは叫び振り返り、ハルトを撃とうとするも銃からは銃弾が発射されない。
「君んも銃からは弾は出ないよ、俺が壊したから」
驚愕で声がでないカノン、彼女の引き金が引く音がその場に虚しく鳴り響く。
そうしているうちにカノンは銃を下ろし
「わ…私の負けよ……」
そう悔しそうに呟いたのだった。
これだけの激戦だった、その経過時間およそ十分間、その短い時間の中にこれだけの密度の攻防を繰り返し、これだけの策を張り巡らせる。
ハルト=ブリンクス、カノン=レイノワール、二人の戦いは長く学園の伝説として語られるのがそれはまだ先の話。
「試合終了!勝者…ハルト=ブリンクス」
これにより、ハルトのランクは十七に上がり、カノンは十八位に下がる、その場より退場するカノン、その姿は先ほどまでの堂々としたものではなかった。
それをみて、やじを飛ばす生徒が数名、それを見たハルトは、その生徒に対し激怒した。
「おい。お前ら、さっさとこの場を去れ、今去らないと消すよ……」
冷徹で冷酷で冷静な声、その声でやじを飛ばした生徒は震え上がり、やがてその場を去った。
その姿目の当たりにしたカノンは、「ありがとう」と一言こぼし、その場を去った。
カノンの後を数名の女生徒が追っていった、どうやら彼女たちはカノンの親衛隊らしく、敗戦したカノンを心配してついていったらしい。
その場に残されたハルトも踵を返し、その場を去ろうと舞台から出たそのとき、そこには長身で白髪の生徒が立っていた。
「ハルトか……はやく上り詰めてこい…俺が食ってやろう……」
そういいその生徒はその場を去った、そうして誰も彼もが去り、舞台は静寂に包まれたのだった。
これがこの学園の日常、これは魔道書が支配する世界の強さで全てが決まる学園でのハルト達が体験する、神の座を賭けた戦いの記録である。
作品名:BOOK~白紙の魔道書~ 作家名:鷺沢灰世