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BOOK~白紙の魔道書~

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書歴379年10月

学園都市「エルティウス」舞踏煉闘技場

学生たちが日々、しのぎを削り合う神聖な闘技場、そこに、少女と少年の姿があった。

何も手どころか見た限り体のどこにも武器を持たない少年と、手には二丁拳銃、背中には大きいライフルのような銃を背負った少女。

二人はにらみ合い、戦闘開始の合図を待っていた、観客の生徒たちも固唾を飲んでその戦いと観戦している。

「それではランカー、ハルト=ブリンクスVSカノン=レイノワールのランカーマッチを開始する」

ランカーマッチ……ここリインレイズ学園では生徒同士が日々切磋琢磨し、技を磨き、自身の強さを証明する方法。

そして、今まさに観客が見守る中心にいる二人は、それこそ自身の命すらかける戦いに身を投じていたのだった。

「ハルト=ブリンクス……ふふっ…身の程を教えてあげるわ…」

「カノン=レイノワールか……悪いけど…勝たせてもらうよ……」

二人はにらみ合い、時がゆっくりと流れる、その瞬間だった音が消えた、そんな錯覚が生まれた。

その静寂を打ち破ったのは一瞬の鈴の音だった、それは決闘開始の合図、それを聴いた二人の体は何かにはじかれ、決闘が始まった。

先制したのはカノンだった、手に持った拳銃での連射、無手のハルトとは一定の距離をとり、決して近づけさせない戦術を組んでいる。

(……へぇ…やっぱりそうきたか……ならこれから行こうかな……)

ハルト頭の中で戦術を組み立て、最善の最良の“武装を選択”した。

銃弾を回転しながら回避し、もう一度カノンの方へ体を向けたとき、カノンは我が目を疑う光景を見た。

先程まで無手だった、ハルトの手には無数のナイフが握られていたのだ、それも一本一本に魔術式が組み込まれている。

魔術式とは、魔術によって組まれる、効果や属性などを付与するための数式、数式と言っても決まった回答も何も存在せず。

ただそれが組み込まれる時に数式のようなものに見えるからと、魔術式などと呼ばれているに過ぎない。

ただ、それを見てカノンは驚いていた、いかに魔術であろうと無から有は生み出せない、確かに魔力を媒介にし、空気中の塵などを使うことも可能だが、それだと構成が不安定であったり必要な魔力が膨大であったりする。

しかも、それを魔術式を組み込んだ状態で行ったのだ、カノンは戦闘前にハルトの特徴などの資料を読んではいたが。

こんな、記述はなかった、そこでカノンは疑問をもった、なぜこの男は今までのランカーマッチを勝ち残れたのだろうと。

そんな思考をわずか数瞬のうちに張り巡らせたカノン、彼女が次の瞬間に見たものは自分の銃弾を弾き落としているナイフだった。

「なぁ……」

驚いたようなカノンの表情、けれど、そんな表情もすぐに消え、先程までの余裕のある表情とは違い、冷静な冷酷な冷徹な表情になるのだった。

「いいわ……あなたに私の力を見せてあげましょう……『レイズバレット』起動」

彼女のことを知らぬ者は数少ないと言えるだろう、ランク17とは言えランカーでは少ない銃の使い手、しかも作者【レイノワール】の家の者。

冷徹な銃弾カノン=レイノワールの魔道書レイズバレットを起動させたのだ、それだけで観客は湧いていた。

けれどそんなことよりも、観客たちは驚くことになる。

「なぜ……レイズバレットのホーミングは完璧にあなたを捉えてるはず……なのになんで……」

ハルトはカノンの打ち出す銃弾を全て撃ち落としていたのだ、それも魔道書を起動させずに。

そんなことをしてもなお、ハルトの表情は歪まず、逆に先程までより余裕の色が見える。

「まったく…君の全力はこんなものではないでしょ……はやく本気を見せてよ……じゃないと…俺も本気になれないよ」

それを聞いたカノンは激情した、カノンは普段から強くなるため、前へ進むための努力を惜しまない人物だ。

だから、だからこそハルトは“そこをついた”

ハルトは知っていたのだ、カノンが自分を馬鹿にされれば怒り、激情することを。

そして、カノンは見事その“策”にはまった、次の瞬間、カノンは自身の持てる全ての火力をハルトに向けた。

両手の拳銃も、背中のライフルも全てだ、それは、一種の奥義、魔道書レイズバレットには数種類の技があり、そのうちのひとつの奥義。

全火力を前方の的にのみ集中する技、『バレットカタストロフ』

対人戦闘においてこれほど驚異的な技はないだろうとカノン自身も自負していることをハルトは“知っていた”のだった。

(さて演算終了だ……あとは俺が耐えられるかどうかだけど……)

あとは賭けだとハルトは考えていた、バレットカタストロフの火力は、持っている銃火器の総合火力。

それを耐えきれば、あとは奥義発動後の隙で勝負をつける算段だ、ハルトは戦いが始まる前から計算と賭けをしていたのだ、自分を無手状態で来ることでカノンの装備を減らすことから、拳銃ならば弾倉ホーミングの確率が高く、逆に自分はホーミングの魔力反応を追尾するナイフを投げる、さらそれを餌に煽れば必ず大技を繰り出すことまで全てが、計算と賭けの代物だった。

ハルトの戦いは戦闘開始前からはじまり、ゴールである、今回ならばバレットカタストロフを打たせるまでので下準備に過ぎなかったのだ。

これが、自分の武器創造魔術をあまり有名にせず、尚且つランクを上げ続けた男の本当の戦術だった。

けれど、そんなこととは露知らず、カノンはハルトの策略に乗った、そのことにカノンが気づいたのはハルトの右手に大きな盾が握られているのを見た時だった。

(!?……あれは…アイギスの盾?……まさか……)

見たことのある盾だった、学生ならば歴史の教科書で一度は見たことのある盾、シールオブアイギス、通称アイギスの盾。

古代の大戦で争いの大陸の半分を焼き払えるほどの火力を誇った魔道書、破滅の魔道書『アーマゲドン』

そのアーマゲドンの一撃を防いだとされるのがこのアイギスの盾であるが、そんなものを作りだすことをハルトにできるわけはない。

ならば、目の前にあるあれはなんなのか、答えはハルトのみが知るのだった。

(これでカノンは警戒するだろうな…こんな“形だけ似せた偽物”に引っかかってくれるんだもんな)

そうこれは偽物、姿形だけをコピーした偽物なのだ、しかし、この状況下で偽物を作りだし、更なる心理戦を持ちかけたのだ。

この状況でさらなるブラフ、危険な賭けだけれどこの先に勝利があるのらしい。

「くっ、ならこれを喰らいなさい『バレットカタストロフ』」

これでピースがひとつ、次、銃は持てる四丁の銃、それから放たれるは一発の光弾。

それを確認した、時点でハルトは盾に魔術防御の術式を組み込み、それを全て受けきる。

これでピースは二つ、あとはハルトの機動力しだいだった。

次の瞬間勝負は決した、盾と光弾の直撃、その後には立ち込める爆炎と煙、それが晴れたとき、すでにハルトの姿はそこにはなかった

「なぁっ……どこ……どこにいるの…!?」

「……ここさ」

カノンが振り返ったそこにはすでにナイフを構えたハルトが立っていた。

「チェックメイトだ」
作品名:BOOK~白紙の魔道書~ 作家名:鷺沢灰世