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ヒトサシユビの森 1.オヤユビ

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この一件はその後も”疑惑の母親”として新聞の見出しになり、テレビのワイドショーでもしばしば取り上げられた。
かざねは雪乃と暮らす一軒家から一歩も出ることができなかった。
かざねを責める匿名の電話やイタズラ電話が自宅に頻繁にかかってきた。
ときには玄関先に”子殺し”という張り紙さえ貼られることがあった。
二週間経過しても、さちやは発見されなかった。
さちやの捜索を打ち切るという警察からの報告がかざねのもとに届いたのは、それから間もなくのことだった。
岩場の血液がさちやの血液型と一致し、相当量あったため、おそらく生存している可能性が低いとの判断から打ち切った、と短い説明が添えられただけだった。
もちろんかざねの納得いく説明ではなかった。
さちやは何者かに拉致されたと訴えても、聞く耳を持つ者は石束の町にはいなかった。
誤認逮捕だったと主張しても、一度ついてしまった烙印(スティグマ)はそう簡単には消えない。
無力感に苛まれ、罪人扱いされながら、哀しみと敵意に満ちた石束の町で暮らし続けることに、かざねは耐えられなかった。
還暦を過ぎた雪乃のことは気がかりだったが、石束の地を離れる決心をした。
雪乃への感謝を置手紙に託し、かざねは夜中にこっそり軽自動車のエンジンをかけた。
石束の町を出ていく軽自動車のあとを見えなくなるまでひとり見送ったのは、山本亮太だった。


2.コユビにつづく