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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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それから (それからの続きの・・・の続きの・・続き)

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    それから(23)  一応 終り



 それでも 恨んじゃ だめ


それは、僅か二ヶ月あまりで・・、思いもよらぬ変わり様だった。
初めての出産の後、彼と相談して、実家で静養した。
そして、
帰って見れば、部屋の中はゴミの山、脱ぎ散らかした衣類。
(一体・・何? 何がどうしたの・・?)

彼女は、取り敢えず、生まれたばかりの赤ん坊の寝床を整えた。そして、あれこれ考える前に、足の踏み場もない部屋を片付け始めた。
片付けながら、訳も無く、涙が出て来た。
(どうして・・、どうしてなの・・?)
と、ただ頭の中で繰り返す。
繰り返し問うのだけれど、それは、ただただ、うなされる様に問い掛けるだけ。 別に答えを求めての問い掛けではなかった。

再び綺麗になった部屋で、彼女は、彼の帰りを待った。
赤ん坊の傍に座り、食べる事も忘れて待ち続けた。

彼が帰ったのは、翌日の深夜。
酒の臭い、虚ろな眼・・ それが・・、その眼が、彼女を見た途端に、鋭く光った・・。
「ただいま・・ どうしたの・・? 何か・・」
有ったの? と聞く前に、彼のもの凄い力で、彼女は、腕をねじ上げられた。同時に、髪を掴まれ、部屋を引き回された。
「どうせ・・俺は、もう駄目だ!」
と叫ぶ様に言いながら、
「落ち着いて・・! どうしたの?」
と言い続ける彼女の言葉など構わず、
「帰ったばかりのお前までが・・そんな目で見るのか!」
と・・

恐ろしく長い時間、無抵抗の彼女を痛めつけ、彼は、床の上に転がった。
そして、そのまま寝息を立て始めた。

それが、元亭主の多恵へのDVの始まりだった。

二人の間に子が生まれた僅か後、多恵の元亭主は、仕事の上で重大なミスを犯した。
それまで、一人っ子として両親の庇護の下、学生時代も含めて、順風満帆だった彼。
将来を期待され、
『経験を積んだ後は、本社の中核として・・』
と、意気揚々と赴任した地方の工場。そこで、彼の過剰な自信と、世間知らずが、裏目に出た。
生まれて初めての挫折。傍に縋る者は、誰も居ない。
最愛の妻は、遠く生まれ故郷。
仕事上の失敗など、恥かしくて、両親になど話せない。
彼は、酒で自分を慰めようとしたのか・・(分からない・・)

酒に溺れた彼は、あっという間に変わった。
そして、
久々にまみえた、縋るべき相手にさえも暴力を振るう最低の男になっていた。

毎日毎日、彼のDVは繰り返された。
多恵は、その暴力が、赤ん坊に向かわない様に・・、兎に角、自分だけに・・と・・、彼の目が赤ん坊に向けられると、わざと挑戦的な言葉を発し・・ ついには、火の点いた煙草まで、何度か押し当てられながら、二人の・・いや、彼女の赤ん坊を守った。

         ・・・

聞くに堪えない事ばかりで・・ 二人で楽しむつもりで来たフィリピンでの最初の夜 兎に角、それをポツリポツリと話す彼女が可哀想で・・
『もう、いいよ・・』
と、グッと彼女を抱いてやりたかったけれど、
俺は、彼女が、全てを話し、静かになるのを待った・・

「ごめんね、・・この話、あなたと一緒になる前に話したかった・・。でも、どうしても・・話そうとすれば身体が震えて・・話す事が出来なかったの・・ごめんね・・」
「・・・」
俺は、彼女の肩に手を回し、彼女を膝の上に寝かし、
「よく頑張ったな・・ よく頑張って・・話したな・・」
と言い、多恵が、やや落ち着いたのを見計らって、
「さて・・俺は、どうすれば好い・・?」
と訊いた。
「・・?」
と彼女。
「俺達このまま、もう暫くじっとしてれば好いのか・・、それとも、 お腹が空いてるんだけど、一緒に食べようよ って、無粋な事を言っても好いか・・・」
「・・ああ、もうこんな時間・・」
「そう、『夕食だよ』と・・多分、呼びに来た者が居たんだけど、俺達があまりにも仲良くしてるから、奴、声を掛けずに戻っちまった・・」
「・・わたし、気付かなかった・・」
「当り前だ。お前が気付いてたら、俺は、話しを聞くのを途中で止めてるさ。気付かない程、一生懸命話してくれてたから・・俺も、一生懸命聞いた。」
「・・嫌だったでしょ? ありがとう・・」
「好いさ、また話したくなったら、何時でもどうぞ。」
「・・そうね・・・、さんちゃんに、こうして抱いて貰いたくなったら、また話そうかな・・ とても暖かくて、気持ち好いから・・」
「その暖かさは、俺の所為じゃなくて、この国の気候の所為だ。くれぐれも誤解の無い様に・・」
「あっ、何時ものさんちゃんに戻った。」
「バカだね~ 何時もの俺は、一生懸命話を聞いてた方だぞ。・・誤解のない様に・・、俺は、見た目よりもずっと真面目なの。」

その夜は、俺達の遅い夕食に、お世話になって居る家族や近所の人達が、一人また一人と加わり、明け方までワイワイやって・・
その所為で、翌日の予定は、全てキャンセル。

俺は、夕方まで只管眠り、
多恵は、近所の家々を引き回され、
「わたし、もう食べれない・・」
と、言いながら、目を覚ましたばかりの俺の前で、チーズケーキをパクついた。



      多恵 からの 贈りもの


俺たちが一緒に住み始めてひと月。

「さんちゃん、・・わたしと一緒になって、ほんとに良かったと思ってる?」
と、多恵が訊いた。
俺は、何時もなら、そんな彼女の言葉に右とも左とも付かない応えをするのだが・・、例えば、
『今更、遅い・・ お互いにね。』 とかね。

だけど、
その言葉を言った時の彼女は、なんだか何時もと違っていた。
だから、
「うん。俺は、一度決めたら梃子でも動かない・・って気で、ずっと好きでいようと決めたんだ。まあ、ちょいと恥ずかしいけど、好きでいようと思わなくても、ただそのままで好き。」
と・・

望むと望まないとにかかわらず、俺に色々有った様に、
彼女にも、色々あった。
だから、特に理由など無くても、日常を楽しく過ごしていても、何の悪戯かふと心が・・縋るものを求める時は有るさ。
俺は、そんな思いと共に、傍に居る彼女に笑い掛けた。

そして、次の日の朝、
俺が夜勤から帰ってみると、
テーブルに数枚の便箋が・・
 
俺が夜勤明けの日は、結婚後も仕事を続けている彼女とすれ違いになるから、食事とか、ちょいとした伝言とか、彼女は書き残す。
だが、その日の便箋は、とても素晴らしい、多恵からの贈りものだった。

          ・・・

 My way  これって 初老の人が 人生を回顧する歌だけど
あなたが夜勤の時、一人でよく聴くの。
そして 何時も思うの
これは、さんちゃんの謳だって・・

今も繰り返し繰り返し、My wayを聴きながら、あなたのことを想ってる

その笑顔・・どんなに苦しくても、絶対に苦しいと言わない
『はいはい・・』 と
嫌だけどしょうがないな とでも言いたげに、諦めた様な返事をしながら、他人から頼まれた事をあっという間に片付けてしまう姿

ベースを弾きながら
『どうも、上手くねぇな・・』 と
何度も同じフレーズを繰り返す・・ 
まるで、すぐ傍に居るわたしの事も忘れている様に
そして、何十回も弾いた後、わたしにはさっぱり分からないけど