不人 一人目 ~空と地面はくっつかない~
砂毛 ええ、すごい! ほんとすごい! これを製品化したら、他社の製品なんか目じゃないわ!
十五 量産できるように考えてみます!
★十五三太は入社二年目にして最強の接着剤を開発した。その商品は今でも「剛着剤」という名で販売されている。
十五三太はそれ以来、「剛着剤」を超える商品開発を独自に進めていた。
そんな中ある事件が起こった。
十五 なぜですか! なぜ僕は開発をやめねばならないのですか!
春井 君の開発力はすごいよ。本当にすごい。しかし、これは越えてはいけない領域の能力だ。
十五 なぜですか……これはあの「剛着剤」とは比べ物にならないほどの接着力なんですよ!?
春井 それが危険なんだ。見てみろ。マウスで実験してみたろう。なぜ死んでいるんだい? 理由はわかるよね?
十五 所長! でもこれがあれば人間の生活は格段に成長するかもしれないんです!
春井 駄目なものはダメだ。
十五 なんで……。
春井 すまないね。
十五 帰ります。
★十五三太はそのまま帰宅した。その姿を砂毛も悔しそうに見ていた。
春井 砂毛さん。彼のレシピを処分してくれ。
砂毛 ……。はい。
春井 まさか、ただの接着剤の会社が兵器を作ってしまうとはな……。
砂毛 使い方次第かと。
春井 世界には色んな人間がいるもんだよ。
砂毛 それはそうですが……。
★そのまま十五三太は退職した。その後、十五三太は自宅でレシピを再現し、開発を続けていた。更に改良を続けながら彼は目標を作り、接着剤に対して狂人となってしまっていた。
十五 地球と宇宙を接着してやる。
【4】矛盾しない矛と盾
★新屋の動きが止まり、両手にスプレー缶を持ち噴射し始めた十五はリュックからガスマスクを取り出し装着した。
十五 まずはこの街の空と地面をくっつける。
★スプレーを噴射し続ける十五の周りに五台のバイクが到着した。そのうち三台は警官であるが、残りの二台は警官ではないようだ。
警官三人はバイクから降りて即座に発砲した。
過左原 あなた方も連絡を受けて?
常世田 はい。ここの状況は無線を通じて少しは把握しています。
狩尾 おれもだ。こいつは銃弾が当たらないとか。
常世田 そのようね。全部落ちてる。
過左原 どうしろってんだ。
狩尾 おれは後ろに回る。あんたは、ええと、あんたは左にいけ。
常世田 常世田です。わかりました。
過左原 僕は右に行きます。みんな自分たちが向かい合わないように注意するんだ。
常世田 了解!
狩尾 オーケィ!
★常世田、狩尾、過左原の三人は十五を囲み三方向から撃ち込もうとしている。それぞれが向かい合わないよう正三角形を作り拳銃を構えた。
狩尾 手を上げろ!
過左原 聞きゃしねぇぜ!
常世田 撃ち込みます!
狩尾 ショット!
★三人は同時に撃つ。十五はさっきからずっとスプレーを噴射し続けボーっと突っ立っているだけだ。
三人の銃弾は全て落下した。
過左原 当たらねぇ。
狩尾 聖人かよ。
常世田 聖人はガスマスクなんてしないわ。
狩尾 わぁーかってるよ!
十五 いや、聖人かもしれないな。
狩尾 なんだと?
十五 空と地面をくっつけるということは、天国と地獄をくっつけるのと同じことかもしれない。そう考えると地上で動けるのは唯一私だけ。天国へも地獄へも自由に行き来できる。それは聖人になることと変わりないのでは?
常世田 言ってる意味が理解できないわ。
狩尾 耳を貸すな。こういうやつの自論は身勝手だ。
十五 そうは思いませんか、砂毛先輩。
砂毛 思わないわ。
★残り二台のバイクの一人が言った。
そのバイクの女性は砂毛晶。以前十五が務めていた会社の先輩だ。彼女はこの事件の犯人が十五三太だと気づいていたのだろう。だから駆けつけてきた。
砂毛 あなたは素晴らしい開発者だったわ。悪用されれば危険なものでも、君ならそれも解決できると思っていたんだけど。残念ね。
十五 これは正しい使い方ですよ。地球は宇宙から隔離されすぎている。
砂毛 空と地面をくっつける。って言ってたわね。
十五 ええ。これなら可能なんですよぉ。スプレータイプにして撒きやすくもしました。どうです? この接着力!
砂毛 それ自体はすごいわ。とても。ただ人間が踏み入れてはいけない性能よ。そんな次元に行ける君が羨ましいと思うの。
十五 砂毛先輩だけですよ、僕を認めてくれるのは。
砂毛 君を認めたからこそ、対抗できるようになりたいと思ったの。
十五 対抗?
砂毛 あなたのレシピを貰ったわ。それでその接着剤の対策をずっと考えていた。
十五 あんな古いレシピ。とっくに改良していますよ。
砂毛 渡さん。準備はいい?
★もう一台のバイクでずっと待機していた男が口を開く。
渡 いいですよ。全て配置につかせました。
砂毛 後はおまかせします。
渡 ありがとうございました。君たちにもお願いがある!
狩尾 貴方は?
渡 申し遅れました。私は人的特殊異常環境洗浄部隊、通称特異部隊の渡大巨と申します。これから我々の作業を開始するので手伝っていただきたい。
常世田 特異部隊? 聞いたことない。
渡 お話は後で。これから私たちの部隊はこの街を洗浄します。そうしたらおそらく奴に銃弾は当たるはずです。
十五 当たりはしないよ。僕は目的を果たさせていただく。既にこの部分は空と地面がくっついた。見えるかい? この停止した空間が。
渡 時間がない。全隊員、発射用意! 発射!
★渡は無線で部隊全体に命令を下した。方方に待機している部隊員は何かを空に向かって放つ。それが空で弾けた。そして十五は手元で何かを創るような動きをする。
十五 こんなこともできる。
過左原 うぐぁっ!
★十五が手を振り下ろすと過左原が叫び声を上げた。脚から血を流して崩れ落ちる。
狩尾 どうした!
常世田 脚に何か刺さってるわ!
狩尾 なに? なにがだ! 見えないぞ!
十五 空間を接着して槍にしたんだよ。こんなこともできる。
狩尾 てめぇ。
渡 撃て!
★三人は十五に向かって撃つ。十五の目の前で銃弾が落下する。
また数発撃つ。十五は銃弾を止める、しかし、一発命中した。
十五 え?
狩尾 当たった?
常世田 なんで? でも当たった!
渡 捉えろ!
★渡の声で多方から網が飛んできた。十五を目掛けて飛んできたその網は、周りにいた狩尾、常世田、過左原を巻き込んで捕獲した。
常世田 えっ、ちょっとっ
過左原 なんでだっ
狩尾 おれたちを巻き込むなよ!
渡 すまないが君たちもここから去ってもらう。
狩尾 なんだと? どういうつもりだ。
渡 我々特異部隊は、あなた方警察とは関係のない部隊です。この場にいられると色々面倒なことになりますので。
作品名:不人 一人目 ~空と地面はくっつかない~ 作家名:月とコンビニ