癒して、紅
絡めた指をほどいて車の左右から乗り込むと、運転席と助手席で手を繋いだ。
「いい?」
「うん」
「わかった。あったら入ろう。なければ… ここでする?」
玲來は答えられず、いや 声の出ないように口を押えて 笑った目を細めた。
「俄然、探す!レッツゴー」
「え?」
「あ、カーナビのセットしようか?」
「もう、トオルは――」
数分も走ると 木々の小路の向こうに洋館のホテルが見えた。トオルは、迷わずハンドルを切った。パーキングに車を停めると、車を降りた二人は、寄り添った。
「中も期待できそうだね」
重い感じがしない話しぶりは 玲來の足も軽やかにさせた。
「ははぁ、そっか」
「なに?」
「さっきのマスターの笑った理由(わけ)。ここを出て お腹空かせてあの店に来たと思われたかもしれないな」
「じゃあ、お腹減らして また寄る?」
「わぁ、アキ、過激。そんなに激しいのできるかなぁ…」
「玲來は、トオルの為ならできるよ。たぶん」
「その言葉、忘れないからな」
トオルは、笑って話す玲來の内心を感じながら、部屋へと入っていった。
トオルは、玲來を哀しい八方美人に戻らないように 腕の中で守りたかった。
この限られた時間の中で玲來の気持ちを開放できれば、トオル自身も癒されていく。
嬉しさと恥ずかしさと後ろめたさに玲來は、心を紅に染めながらトオルに抱かれた。
もう二度とないかもしれないこの時間(とき)を ただ相手のぬくもりを実感して想い出の箱にしまえればいいと思った。
癒しても癒されても 関係は何も変わってはくれない… それでもいい
どんなに心が紅く紅く燃えても 暮れない陽はない… そのときはくる
だから、今だけは嘘でもいい「あなただけよ」と言ってくれ
だから、今だけは嘘でもいい「キミが好きだよ」と言って欲しい
願いを素直に言えたなら もっと近づけそうなふたり。
なのに言えない……
相手の想いを叶えて癒される…
そんな癖がいつの間にか身についたトオルと玲來は、ホテルの一室で恋人以上に抱擁の海に身を沈めていくのだった。
― 了 ―