からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話
ブルークラッシュは『大人可愛い」をコンセプトに、20代の女性ゴルファー
を中心に、お洒落なウェアとして人気を集めている。
ゴルフ場以外でも、気軽な街着として着用できるし、貞園もよく愛用している。
冬物の新作が華やかに並んでいる。
店内に入った瞬間から早くも貞園の目と心は、ウキウキしっぱなしだ。
足早に歩き回る。興奮した時の貞園は、歩く速度が速くなる。
品定めを繰り返しているうち、貞園の手元が、冬物の新作でいっぱいになる。
貞園の様子を遠くから見つめていた岡本が、店員を呼びつける。
「あの子が手にしている全部を、ギフト用に包装してくれ。
上へ羽織るパーカをまだ選んでいないようだ。
あの子に似合いそうなパーカを、選んでやってくれないか。
会計はいつものようにこいつで頼む」
馴染みの店員へ、慣れた手つきでカードを渡す。
カードを受け取った店員が、愛想笑いを浮かべて貞園に歩み寄る。
まだあれこれと物色中の貞園へ『お決まりですか』と声をかける。
『あちらのお客様から・・・・』と、事の次第を説明する。
途端に貞園が顔色を変える。
「いけません。全部、自分で支払いします。
会ったばかりで、いきなり高価なプレゼントをいただいては、
後で私が困ります」
「遠慮するな。
こう見えても(ヤクザ)は金持ちだ。
念の為に言っておくが、不正なカードじゃないぞ。
俺が汗水たらして稼いだ、まっとうな金だ。
冬物のパーカを選ぶついでに、帽子と揃いのお洒落な靴下も選ぶといい。
それで一通りの冬のファッションが出来上がるだろう。
この冬で一番見栄えのする美人女性ゴルファーに、君は変身するだろう。
今度、どこかのゴルフ場で君と会えるのが楽しみだ」
好意に甘えた貞園が大きな紙袋を手に、ゴルフショップをあとにする。
親密度を上げた2人は、白いベンツを駐車場へ置きざりにしたまま、
ゆっくりと前橋の商店街を歩き始める。
『どこに人の目があるのか油断できん。目立たない場所で静かなところがいい。
知っているか。そんなコーヒー屋を』
と聞く岡本へ『まかせてよ。ここの裏道にうってつけのカフェがあるの』と、
貞園がこたえる。
少しお茶目に、ウインクなどをしてみせる。
(116)へつづく
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話 作家名:落合順平